【9月15日】2003年(平15) 

 【阪神3-2広島】「前進守備や。打てば頭を越える。思い切り行け」。大歓声の中、阪神・星野仙一監督は耳元で“レッド”こと赤星憲広中堅手にこうささやいて打席に送り出した。

 甲子園での広島23回戦、9回裏一死満塁。スコアは2-2。闘将の耳打ち通り、背番号53F思い切ってバットを振ることだけに集中し、左打席に立った。

 マウンドは広島5人目の右腕、鶴田泰投手。初球から絶好球がきた。117キロのカーブ。コンパクトに振り抜くと打球は、朝山東洋右翼手の頭を軽々と越えた。

 5万3000人で埋め尽くされたスタンドは狂喜乱舞。笑顔、笑顔の阪神ナインが赤星に駆け寄り、背番号53に“殴る蹴る”の手荒い祝福をした。

 2日前、母・敏子さんを亡くし、この日の葬儀には参列しなかった星野は今にも泣き出しそう。赤星の頭を撫ぜるというより、髪の毛をかきむしった。「レッド、ようやったな!」。そんな指揮官に赤星の方がビックリ。「嬉しかった。監督にあんなことされたの初めて」。

 甲子園での勝率は8割ジャスト(44勝11敗)。この年のタイガースは本当に“内弁慶”だったが、毎試合超満員になる阪神ファンの大声援という10番目の選手に後押しされての快進撃だった。

 これでマジック1。虎党の関心は、甲子園から約550キロ離れた夕暮れの横浜スタジアムに移った。マジックの対象チーム、ヤクルトが横浜に敗れれば、18年ぶりのリーグ優勝。ハマスタの一塁側、右翼席では黄色いメガホンが揺れ、縦ジマのレプリカユニホームを着た人がベイスターズを応援する風景まで見られた。胴上げを待つ甲子園球場のオーロラビジョンには、横浜-ヤクルトの25回戦が映し出された。

 対阪神6勝22敗。タイガース独走を大いにアシストした横浜は、最後まで“いい人”だった。4点を先行された横浜は、2回にタイロン・ウッズ一塁手が33号ソロ本塁打を放つと、それを合図に大爆発。ウッズ2本、ルーキー村田修一三塁手も2本など計6アーチでヤクルトを粉砕。12-6で勝った。「阪神を優勝させようというのはなかった」と、最下位が確定している山下大輔監督の表情は全くさえなかった。

 午後7時33分、サヨナラ勝ちから2時間9分待たされての星野監督の胴上げが始まった。4年連続最下位のダメ虎を2年で優勝させ、39年ぶり甲子園での胴上げを実現した男の第一声は「ああ、しんどかった」。母思いの星野が敏子さんの死を周囲に伝えたのは、優勝セレモニーの30分後。7年前には愛妻にも先立たれていた。本当にしんどかったのは、体調も万全ではなかった背番号77の“燃える男”だった。



【2007/9/15 スポニチ】
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