(セ・リーグ、横浜3-6阪神、5回戦、阪神4勝1敗、12日、横浜)阪神・金本知憲外野手(40)が12日の横浜戦(横浜)の七回、寺原隼人投手(24)から右前適時打を放ち、プロ野球37人目の通算2000安打を達成した。広島時代のプロ2年目の93年8月8日のヤクルト戦で初安打を放ち、17年目で大記録を打ち立てた。王手をかけてから18打席無安打は最長記録となった。






 沈みゆく夕日までも祝ってくれた。暮れなずむ横浜に“虹”をかけた。ようやく男になった。午後4時28分25秒-。2万9866人の観衆が最大の苦しみを味わった金本を称えた。歴史の証人となった。

 「ちょっと焦らせすぎましたかね。長かった? ボクは長く感じなかったけど、1日も早く打ちたいと思っていました」

 新井と移籍後、初のお立ち台。史上初の1000安打&2000安打の同時達成。「キモイですね」。苦労した分、ジョークが冴える。「運命的なものを感じます」。弟分の言葉が胸にしみた。ともに広島に背を向けた。愛着はあるが、後悔はしていない。「優勝」を求めて飛び出した2人が目を合わせた。至福の瞬間だった。

 「M1」から最長の18打席無安打で迎えた七回二死三塁。カウントは2-2。寺原が内角に投じた150キロのストレートを弾き返す。打球が右前に落ちるのが見えた。5点目を叩き出す適時打。生還した新井と矢野がベンチから飛び出した。それが嬉しかった。

 「1点がほしかったので、1点入ったという気持ちの方が先だった。詰まりましたね。バットも折れたし…」

 苦闘を象徴する商売道具。しかし心は折れなかった。6日の巨人戦(東京D)で王手をかけた。その頃から左太ももに強い張りを感じた。左ひざ手術の影響だった。「不安が出るなら2、3週間たってから」。予想が当たった。だから慌てなかった。

 「自分は運が強いというか、強いモノに守られている気がします」

 守ってくれた人を挙げればキリがない。故島野育夫氏も、その一人だった。本塁打を放った3月5日の広島との追悼試合(京セラD)。数日後、ホームランボールが帰ってきた。サインを書き、未亡人の美智子さんに送った。仏前に供えられている白球に誓いを立てた。昨年12月17日の葬儀前日、亡骸を前に号泣した。天国の“オヤジ”への最初の恩返しだった。

 「実感? 名球会(総会が行われる)でハワイへ行って一番、ぺーぺーになって、酒をついで回ったら実感がわくかも」

 悲壮感が似合わない金本は冗談で周囲を笑わせた。偉大な先輩の前では若輩者かもしれない。だが阪神では功労者。新たな“レール”が敷かれている。

 「一度、東京で評論家をして勉強してから、指導者として戻ってきてほしい」

 バットとグラブを置く日が近づいてきているが、球団幹部は監督として迎え入れるプランを披露した。金本は至宝-。そのスタンスは不変だ。

 「次は2500(安打)。本塁打も500本をメドにしたい。2000安打は個人のことだから。優勝はチームで喜べる。できる限りのことをして、ヒットをたくさん打ちたい」

 2008年4月12日。また鉄人が強く、大きくなった日をファンは忘れない。目指すは3年ぶりの頂点。アニキが次の歓喜に誘ってくれる。


(野下 俊晴)




■金本 知憲(かねもと・ともあき)外野手
 1968(昭和43)年4月3日、広島市生まれ、40歳。広陵高、東北福祉大を経て、91年D4位で広島に入団。99年、サイクルヒットを記録し、00年は打率3割、30盗塁、30本塁打のトリプルスリーを達成。02年オフ、阪神にFA移籍し、03年の優勝に貢献。04年は打点王、05年はリーグMVPに選出された。06年、904試合連続フルイニング出場の世界記録を樹立した(現在1199試合)。右投げ左打ち。1メートル80、88キロ。年俸5億5000万円。背番号6




■2000本あらかると
 ★阪神では? 山内一弘(67年到達)、藤田平(83年)に次いで3人目。金本は広島時代に1179安打を記録し、阪神では821安打
 ★スロー記録 40歳0カ月での到達は落合博満(41歳4カ月)、新井宏昌(40歳2カ月)に次いで3番目のスロー記録。国内最年少は榎本喜八の31歳229日でメジャーを含めれば、イチローの30歳212日
 ★量産 金本の到達までの05年から3年間の安打数は489。イチロー(マリナーズ)の662に次ぐ数字で、張本勲の486を超える国内1位
 ★大卒達成者 社会人野球を経由せず、大学から直接入団した野手では長嶋茂雄、山本浩二、谷沢健一、野村謙二郎、有藤通世、新井宏昌に次いで7人目
 ★内訳 本塁打=397、三塁打=34、二塁打=333、単打=1236


【NPB】史上最大の“難産”金本「虎で1本でも多くヒットを打ちたい」

 37人目の2000安打を達成した阪神・金本知憲外野手(40)が横浜戦後、横浜市内の宿舎で100人の報道陣を前に会見を行った。史上最大の“難産”を味わったものの、慌てず騒がず、鉄人は健在。球場での新井とのお立ち台と合わせて、アニキ節をどうぞ-。

★印象に残るヒットは1本目

 --まずは新井選手。1000安打と七回は金本選手のお膳立てができました

  新井 「何とかいい形で金本さんにつなごうと思ってました」

 --三塁から喜んでかえって来ましたね

 (ニヤニヤする新井の頭を金本が叩く)

 新井 「本当、自分のことのようにうれしかったです」

 --金本選手、おめでとうございます

  金本 「どうも」

 --今の気持ちは?

 金本 「ちょっと、ジラし過ぎましたかね、すいません」

 --18打席無安打。長かったですか?

 金本 「ボクは意外と長くは感じなかったんですが…。一日も早くという気持ちは強かったんですけど、結果的にいいところで出てよかったです」

 --振り返るとどんな思いが…

 金本 「2000もヒットを打っているので、振り返るのは難しいですが、タイガースのユニホームを着て1本でも多くヒットを打ちたいと思います」

 --いろんな人に支えられました

 金本 「周りの方々とか、数え切れないぐらい感謝したい人がいます。ファンの声に一番感謝したいと思います」

 --新井選手とのダブル達成ですが

 金本 「キモイっすねぇ」

 新井 「運命的なものを感じます」

 --ファンへのメッセージを

 新井 「まだ始まったばかり。気を引き締めて頑張っていきたいと思います」

 金本 「また勝ち続けていくために声援をお願いします。あすはタイガースの勝利と2001本目のヒットを見に来て下さい」




--今の気持ちは

 「ちょっと、焦らせすぎましたかね、すいません」

 --重圧があった

 「意識していたといえばしていました。自分が思うよりも周りがワーワー(笑)。雰囲気にのまれた感じでしたね」

 --一番印象に残っていることは

 「最初の1本目でしょうね」

 --心技体で大事なものは

 「心でしょう。気持ちじゃないですかね。ブレないというか。周りに左右されず自分の目標を持つ。苦しい時期も、はい上がろうという気持ちを持つことです」

 --新井選手とダブル到達ですが

 「キモイっすねぇ、厚かましいヤツですね(笑)。便乗しましたね」

 --両親と神様に感謝したいと話していたが

 「やっぱり両親ですね。世話になった人は数え切れない人がいますけど、親と神様には感謝したい」

 --記録については

 「まあ挑むものであって、破られるものであって、抜かれるもの。励みになるし、目標にもなる」

 --次の目標は

 「2500本にチャレンジしたい気持ちになりましたね」

 --記念のボールは

 「もらったよ。家に置いておくわ」

【NPB】新井も1000安打達成!!W達成「運命的なものを感じます」

 (セ・リーグ、横浜3-6阪神、5回戦、阪神4勝1敗、12日、横浜)阪神・新井貴浩内野手(31)が12日の横浜戦の一回、寺原から二塁打を放って、通算1000安打を達成。プロ野球249人目で初安打は広島時代の99年5月12日の巨人戦(広島)でホセから放った。金本とのダブル達成に「記憶に残る1日になった」。今度は弟分が2000安打を目指す。




 晴れやかな師弟の笑顔が並んだ。初めて2人そろったお立ち台。史上初の1000安打&2000安打の同時達成をたたえる場でも、名コンビは健在だ。Wメモリアルの感想を問われた新井が一瞬、間を空けると、すかさずアニキの“鉄拳”が頭頂部に降ってきた。その痛みが心地よかった。

 「ホント、自分のことのようにうれしかったです記憶に残る、忘れられない1日になりました」

 一回一死一塁、寺原の直球をとらえて右翼線二塁打。あっさりと露払い役を終えた。花束を受け取り、周囲に頭を下げたが、表情は硬いまま。勝利で鉄人の節目を飾るために必死だった。

 思いは報われる。同点の七回二死二塁だ。寺原のシュートを振り抜き、中堅フェンス直撃の勝ち越し三塁打。そして、歴史的瞬間を見届けた。5点目のホームを踏んで三塁ベンチに戻ると、すぐに花束を抱えて走り出した。

 新天地に渡るか残留か。一世一代の賭けだった。決定直前、兄を心配した弟の良太(中日)から電話があった。

 「兄貴、大丈夫か?」

 「いろいろ大変やけど、お前にもどうかはいえんわ。漏れるかもしれんからな」

 家族にも胸の内を明かせないほど、悩み苦しんだ。そんな極限状態で出した結論の決め手は、“兄”の存在。もう一度、一緒に野球がしたかった。だが、失ったものは少なくない。広島遠征では「裏切り者」とののしられ、大ブーイングを浴びた。どんな苦境にも耐える覚悟で一念を貫いた。

 「(同時達成は)キモイですね」。ちゃかす金本の隣で「運命的なものを感じます」と絶妙の切り返しで笑いを誘った。すべてを吹っ切れた。

 「きょうで1001安打。次は1002本目を目指してがんばります」

 背中を追いかけてきた先輩が、新たな目標を示してくれた。レギュラー定着後のペースで、2000安打達成は39歳の2016年。アニキと同じタテジマで決めてみせる。

【2008/4/13 サンスポ.COM】
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