「金メダルしかいらない」と北京五輪に臨んだ星野仙一監督(61)率いる野球日本代表は、銅メダルすら届かず4位に終わった。星野監督は「申し訳ない」と語るだけで、敗因について「選手が生かしてくれればいい」と詳しい説明をしなかったが、何かが欠けていたはずだ。現地で取材した私が実感したのは、国際大会に対する認識の甘さと、適応力の欠如だ。

 例えば、星野監督は米国との3位決定戦に負けた直後、「(初戦の)キューバ戦から、打者も投手もこわごわバッティング、ピッチングをやっている感じ。ゾーンが他の世界でやっている感じで戸惑った」と球審のストライクゾーンの違いを訴えた。「五輪にプロ選手が出ろというなら、審判もプロにしないとプロの選手がかわいそう」と主張し、24日の帰国会見でも「ストライクゾーンに不信を感じた」と繰り返した。

 負けた監督が敗因を審判の判定に押しつけるのは、選手をかばう意味もあるだろう。しかし、さまざまな国籍の審判が集まる五輪で個々の技術レベルに違いが出るのは、以前から承知していたはずだ。他国は、それを前提として試合に臨んでいた。

 金メダルの韓国、銀メダルのキューバの選手のプレーを思い出してほしい。打者は最初のストライクから積極的に打ち、投手は力のある直球、鋭い変化球を投げ込むことに徹していた。ストライクゾーンの違いを敗因にするような監督は見当たらなかった。韓国の金卿文監督は「(国際大会では)打者は来た球に反応し、打たないといけない」と話した。

 日本は昨年12月のアジア予選で五輪出場を決めると、スコアラーが情報収集に動いた。相手の打者の弱点や投手の特徴などを分析。それをミーティングや移動のバスの中で選手の頭にたたき込んだ。日本のプロ野球で行っている方法と同じだ。投手は相手の打者の弱点のコースを丹念に突き、打者はじっくりと投手の投球を見て投球パターンから次の球を読んで打つ。

 しかし、ボールと思って見逃した球をストライクとコールされたり、逆にストライクを投げたつもりがボールとされると、どう対処していいか分からない選手が多かった。日本には臨機応変の柔軟な姿勢が欠けていた。選手の戸惑う姿がひ弱な印象にもつながった。

 対照的にキューバは、情報収集に力を入れていなかった。大会期間中にスタンドで強化担当者が紙切れにメモをしている程度だった。キューバ野球に詳しい日本の関係者は「キューバは来た球を思い切り打てる打者、速球で押せる投手を選んでいる。だから細かいデータを収集する必要はない」と話す。その姿勢がキューバの力強さにつながっていると感じた。

 事前準備にも課題があったと思う。国内での直前合宿6日間(8月2~7日)と強化試合2試合(8月8、9日)という短さだった。プロ野球のペナントレースで実戦を積んでいるとはいえ、もっと五輪に対応するための練習ができなかったか。

 韓国とキューバは互いに練習試合を行ってから北京入りした。実は日本代表にも、中国代表から北京で練習試合を行いたいとの申し込みがあったが、「投手のやりくりができないから」(星野監督)という理由で断ってしまった。審判の判定、選手の調子、国際試合の雰囲気などを把握するために、経験させておくべきだった。

 韓国は五輪の公式ボールに慣れるため、国内のリーグ戦にも同じボールを使うほど入念だったが、巨人の上原浩治投手は「そういうところが日本は遅れている」と率直に話した。

 今回の惨敗には、日本プロ野球組織(NPB)に野球ファンから批判の声が集まっている。ところがNPBは来年3月の国・地域別対抗戦「ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)」の日本代表監督を、星野監督に打診しているという。元五輪代表監督の長嶋茂雄氏や、前回のWBCで監督を務めたソフトバンク・王貞治監督は健康上の理由で難しい。大リーガーを含む大物選手を束ねる指導力とカリスマ性、知名度などを考慮すると、他に適任者が見当たらないらしい。

 星野監督が要請を受け入れるかどうかは、まだ分からない。しかし、誰が監督に就任しても、五輪の敗北を受け止め、WBCに生かす姿勢が必要だろう。星野監督は「負けはしたが、日本は弱くない」と強がってみせたが、今の日本球界に必要なのは、敗北を謙虚に受け止め、冷静に反省することだろう。

【2008/8/29 毎日新聞】
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