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【9月14日】1994年(平6) 

 【オリックス14-1日本ハム】日本ハム・有倉雅史投手の外角のフォークを軽く拾った打球は、三遊間をきれいに破った。小川浩一左翼手の前ではねた白球の行方を確認すると、弱冠二十歳の天才打者、オリックス・イチロー中堅手は、一瞬ニヤッとしただけで一塁ベースに戻った。

 イチローのヒットはこれでシーズン192本目。セパ両リーグに分列した、1950年(昭25)に阪神・藤村富美男三塁手が記録したプロ野球シーズン最多安打記録を更新する、44年ぶりのニューレコードだった。オリックスファンだけでなく、日本ハムファンからも祝福され、東京ドームの3万2000人の観衆の大拍手はなかなか収まらなかったが、イチローには正直“実感”というものがなかった。

 自分が生まれる23年も前の、しかも見たこともない大先輩の記録を抜いたといっても、どうしてもピンとこなかった。「6打席立ってヒット1本というのが悔しい」とイチロー。自然と試合後のコメントは新記録よりも、きょう1日の結果に関心があるものになった。当時、実質プロ1年目のイチローにとっては過去の偉大な記録より、まだその日その日が大切だった。だから、44年も破られなかった記録を塗り替えたことより、チームが19安打14点を奪った試合でシングルヒットわずか1本というのが、何か自分だけ乗り遅れたようで釈然としなかったのである。

 ところで、イチローの192安打は116試合目で達成されたが、藤村の192安打はシーズン最終戦の140試合目だった。イチローは結局、94年のシーズンに計210安打を放ち、現在でもプロ野球記録だが、これも130試合制の中で樹立したもの。140試合前後が当たり前になったその後のペナンレースでもまだイチローの記録を抜き、新記録を打ち立てた選手はいない。

 当時のイチローの年俸は800万円(推定)。ヒット1本あたりのお値段は約3万8095円。3億6000万円(同)球界最高年俸だった巨人・落合博満内野手の場合は、この年125安打を放ったが、これを1本あたりで金額に換算すると288万円。イチローと比べて約76倍と“高額”な安打ということになった。

 日米通算3000本安打を達成し、8年連続200安打も近づきつつある35歳のイチロー。どこまで記録を塗り替え、どこまでそれを伸ばすのか。このペースでいけば、40歳を過ぎるころに、4000本安打そしてメジャー記録であるピート・ローズ(レッズほか)の4256安打を破ることになる。「45歳まではやりたい」と話しているだけに、5000本安打も夢で終わらないような気がしてならない。

【2008/9/14 スポニチ】
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