「私も戦う」スパイク履き

 84年以来となるワールドシリーズ制覇こそ達成できなかったが、タイガースの躍進には目を見張るものがあった。3年前に119敗の“猫”がなぜ獣王の意気高らかな虎へと変身したのか。キーマンたちの働きぶりの中に、低迷からの脱出を目指す日本の球団にも有益な「V字回復へのヒント」が隠されている。

 試合前の会見場。カチャカチャとスパイクの音が響く。選手の登場かと思いきや、姿を現したのはジム・リーランド監督だ。ベンチとマウンドを往復するだけの指揮官がスパイクを履く監督など極めて異例。

 理由は「選手たちに、私も一緒に戦っていると示すため」という。こうしたちょっとした配慮が、組織の一体感を生み出す。

 選手としてのメジャー経験はない。しかし、監督としてはパイレーツで90年から地区3連覇を達成し、若手だったボンズ(現ジャイアンツ)のわがままも一切、許さなかった。97年にはマーリンズを率いてWシリーズ制覇。白い口ひげの指揮官には選手から尊敬される実績があった。

 タイガースの名選手だったトランメル前監督は、温厚な性格で選手からも信頼されていた。ところが、「オープン戦で結果を出した若手のテームズではなく、故障でろくに動けなかったベテランのヒギンソンを開幕メンバーに加えた。この一件でラテン系の選手らが反発。特にチームの核となる捕手のロドリゲスとは対立が決定的となってしまった」(球団関係者)。

 こうなると借金生活しか知らない監督は弱く、チームはアッという間に空中分解してしまった。

 もちろん実績だけで選手はついてこない。地元紙記者によると今季の序盤、インディアンスに大敗した試合後のこと。監督室で報道陣が待ち構えていると、ロッカールームからものすごい怒声が響いてきたという。

 「何枚も壁を隔てているのに『こんな試合をしているようではダメだ!』と聞こえた。僕らまで身の縮む思いでね。その後、監督室で『私を含めてこれではダメ』と52秒だけ一方的にしゃべって出ていったよ」

 また、試合中に選手が負傷すると、どの監督よりも早い足で駆けつける。ここでスパイクの威力が発揮されるわけだ。また選手を公の場で決してけなさない。バント処理失敗が相次いだWシリーズ終了後も、「私の失敗だ。ア・リーグではあまりバントをしない。シリーズ前の練習では、他のテーマに取り組んでいた」と、あくまで責任は自分にあると選手をかばった。

 「監督はチームの皆を信頼してくれた。彼なしではここまでこれなかった」とはルーキー右腕のバーランダー。すべての選手を信頼した指揮官は、すべての選手から信頼されている。=つづく

【2006/10/30 ZAKZAK】
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