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3失点で済んだのはラッキーだった
 自身のキャリアを左右するほど重要な意味を持つと思えた17日(日本時間)の登板で、井川慶は勝利投手の権利を保ったままヤンキー・スタジアムのマウンドを降りた。5回を投げて3失点。一見、まずまず。しかし、中身を詳しく見ていくと、「合格点」とは決して言えない。2本塁打を含む7安打を浴びた上に、4四球、ボークも献上した。正直言って、これで3失点で済んだのはラッキーだったろう。

 しかも、今夜(17日)は序盤に先制点をもらい、同点に追いつかれてもすぐに突き放してもらう、先発投手にとっていわば理想的な試合の流れだった。だが、そんな中でも最後までピリッとせず、ファンの期待に応えたとは言い難い。

「最初の2ランはカウント2-0からでもったいなかったです。(2本目の)ソロの方は力勝負にいって打たれてしまった」

 試合後、トロイ・グラースに喫した2本塁打について、そう説明したときの井川の浮かない表情も印象に残る。

「コースが甘くなるのが最大の問題」
「持ち球自体は決して悪くない」

 井川について、ジョー・トーリ監督はこれまで結果が出ない間もずっとそう言い続けてきた。確かにストレート、チェンジアップともに、好調時の切れ味はメジャーでもそん色ないように思える。この試合も強打者フランク・トーマスから2奪三振。しかし、そのトーマスは試合後、井川がここまで結果を出せなかった原因を分かりやすく説明してくれた。

「(井川は)間違いなくメジャー級の球を持っているよ。特にチェンジアップはいいね。ただ、どんないい球でも投げるコースを間違えてしまえば、このリーグではその報いを受けることになっているんだ。井川の場合も、四球が多いといった制球力の問題よりも、コースが甘くなることが最大の問題だよ」

 井川の持ち球はメジャーでも通用するレベルだが、かといってコース関係なしに強打者たちを支配できるほどの球威はない。ゆえにすべての球を丁寧にコントロールしていかねばならないが、それを1試合通じて続けられる安定感がない。

日本では通用しても……
 パワーの面で劣る日本では、おそらくコースが甘くなっても、ある程度は打ち損じてもらえたのだろう。だが、メジャーではたとえ球が走っていても、コースがばらつくイニングには痛打されてしまう。あるイニングは良くても、次の回にはどうなるか分からない。ある意味スリル満点で見ている者を飽きさせないが、プレーオフへ望みをつなぐために毎試合必勝体勢の今のヤンキースには、ローラーコースターの乗車を楽しむ余裕はない。

「井川と水曜日に調整法などについて話し合ったんだ。成功するためには、彼自身の感覚が大切だからね」

 この日の試合前には、トーリ監督はそう語っていた。オールスターブレークを挟み、躍進への期待は大きかったはず。心身ともに調整十分で臨めたはずのこの試合のマウンドの持つ意味は、井川にとっても計り知れないほど大きかった。

先発の立場はかなり厳しい
 しかし、その“背水”登板でも十分な結果を出せずじまい。ヤンキース先発投手としての立場は、これでかなり厳しくなったと言える。現在のヤンキースには、王建民、ロジャー・クレメンス、マイク・ムシーナ、アンディー・ペティットと名実ともに最高級の先発4本柱がそろっている。それに加え、故障中だったフィル・ヒューズ、ジェフ・カーステンズの回復も順調に進み、さらにはタイラー・クリッパードもマイナーで好投を見せている。今週の土曜(22日)にはデビルレイズとのダブルヘッダーが予定されていて、投手が足りなくなる。その日に限っては井川の先発は予定通りだが、その後は……。

 4月19日にヤンキー・スタジアムで行なわれたインディアンス戦で、井川はメジャー初勝利を飾った。そして同29日には緊急リリーフで宿敵レッドソックスを倒した。当時も決して快調な投球ばかりだったわけではないが、しかし、地元で挙げた2勝を見る限り、彼の行方には希望も十分に見えているように思えた。

 だが、時は流れ、最近ではニューヨークのファンやメディアの間では、井川を形容するときに“ヒデキ・イラブ”の名が引き合いに出されるようにもなった。地元紙『ニューヨーク・ポスト』は、オールスター直前に前半戦総括を掲載。そこでの「井川の失敗に比べればイラブがいい思い出に感じられる」といった評は、余りにも厳しい見方にも思えた。だが、大金をもらってニューヨークに来た以上、結果がふるわずに風当たりが強くなるのは仕方ないだろう。

どんな形であれ、結果を出すのみ
 もちろん、井川の持ち球への評価は依然変わらないのだから、今後もまだまださまざまな形でチャンスはやって来るはず。たとえ、一時的に先発から外されても、ロングリリーフ役にも価値はある。チーム内に故障はいつでも起こり得るし、先発にベテランの多いヤンキースならなおさらだ。とにかく、どんな形であれ投げ続け、結果を出すしかない。

「ダブルヘッダーは初めてだから楽しみたい」

 この試合後、次の登板について前向きに語った井川に、この土俵際から抜け出す度量があるのか。好投を続け、セカンドチャンスをつかみ取れるのか。現時点で確かなのは、ストレートとチェンジアップを満足に制球しきれなかったゆえに、井川は今、ニューヨークでの自身の運命をコントロールするのが難しくなってしまったということ。だが、運命は再び変わり得る。コントロールできるようになる。そのための次のチャンスは、すぐにまたやってくるのだ。

2007年07月17日 スポーツナビ
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