電車が近づいてきたその時、プラットフォームで電車を待っている人を突然線路に突き落とす。なぜ少年はそんな恐ろしい行為に駆り立てられたのか。彼は何を思っていたのか、JR岡山駅で先月起こった突き落とし事件を、関係者の証言や少年の供述でまとめた。


刑務所に行ける

 少年の心理状況を如実に表す言葉がある。

 「刑務所に行ける」

 岡山県警の関係者は、これを「現実逃避したい心理状況を表している」とみる。実際、産経新聞の取材に、大阪府内に住む少年の両親は切々と訴えた。

 「あの子をあんな風に追いつめてしまって-」

 「逃げ場がなかったんだと思います」

 父親は事件直後には「何で、何でとしか思い浮かばない」と語っていたのだったが。

 では、何が少年を追いつめたのか。彼はどこへ逃げればよかったのか。


行き場を見失い

 平成7年の阪神大震災で被災。移り住んだ大阪では中学時代にいじめにあい、自宅から遠く離れた高校に通った。

 進学時に父親も、中学の同級生のいない高校を選ぶよう勧めた。友人には「将来はガーデニングなど、自然にかかわる仕事がしたいから」と説明していたという。

 進学後は成績が上昇。「医学部に行きたい」「電気関係の発明をしたい」。夢を語る少年に父親は「社会の役に立つ人に」と励ました。「めちゃくちゃされてきたから、仕返ししたる」。一度だけこう話すのを聞いたが、「そんなことしたらあかん」と諭すと、納得したように見えたという。

 しかし昨年秋、少年は高校に進学断念を伝えた。「親から『貧乏だから、今年の進学は止めてくれ』と言われた」。直後の学期末試験の成績が落ち、高校は影響を心配した。

 結局希望の大学進学はかなわなかった。

 「お金を貯めて国立大学に進学したい」

 父親にはそう話していたというが、街中で偶然出会った同級生に対しては「金が足りなくて大学に行けない。社会人になるために就職活動をしているけど、仕事が見つからなくて難しい」と打ち明けていた。

 兵庫から大阪へ、遠い高校へと、なんとか難を逃れてきた少年は、大学という次の行き場を見失い、社会の壁に阻まれて逃げ場を失った。

 「大阪を離れたかった」

 刑務所が行くべき場所に思えたのか。

逃避行の果て

 「人を刺そうと思ってナイフを持って家を出た」

 少年は逮捕されたときにナイフを持っていた理由を聞かれ、そう答えたという。

 肌身離さず持っていたという携帯電話さえ自宅に残し、少年は犯罪目的でナイフを持って家を出た。すでに平穏な日常は捨てていた。

 朝、大阪の自宅を出た動機は「どこかで人を殺そう」。

 そして大阪・梅田をぶらぶらしたあと、幼少時を過ごし、震災まで住んでいた兵庫県尼崎市に入った。この間の詳細は分かっていないが、ゲームをしたり持っていた小説を読んだり、少年はまるでこの町の住人のように振る舞っている。

 すでに刑務所に逃げ場を求めていた少年は、つかの間、現実からも自らの決心からも離れた、甘く切ない逃避行に身を投じたに違いない。

 少年は夕方、阪神電車を利用して直通運転区間の終着駅・山陽電鉄網干駅(兵庫県姫路市)に。そして夜の帳が降りたころ、JR網干駅で「すぐに料金が分かった岡山駅までの切符を買った」。ただ闇雲に西を目指した。

 午後9時ごろに岡山駅に到着した少年は、駅西口などをぶらぶらする。

 「駅周辺をうろつき人を刺そうと思っていたが、決心がつかなかった。人を殺そうか迷っていた」

 そして午後10時、コンビニで買った「ホットドックを食べているとき、電車でひかせて人を殺そうと決意した」。

 10時45分。駅構内に入り、プラットフォームへ。

 午後11時5分。2番ホームに、岡山駅止まりの普通電車がゆっくりと滑り込んできた。

 少年は、プラットフォームの一番前にいた男性の肩を黙って押した。

【2008/11/18 MSN産経ニュース】
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