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【3月24日】2009年(平21) 


 【日本5-3韓国】延長10回2死二、三塁。重苦しい雰囲気を切り裂くライナーが韓国のストッパー、林昌勇投手(ヤクルト)の正面を襲った。グラブを差し出すもかすりもせずに打球はセンターに抜けた。三塁走者の内川聖一左翼手(横浜)が楽々生還、続いて二塁走者の岩村明憲二塁手(レイズ、2010年からパイレーツ)も還ってきた。

 3月23日(日本時間24日)、米ロサンゼルスでの第2回WBC決勝。韓国との5度目の決戦にして、一番負けられない戦いの白星をグイッとたぐりよせる2点適時打を最後のシビれる場面で放ったのは、やっぱりこの人、イチロー(マリナーズ)だった。

 「決勝打?僕はもってますねぇね、やっぱり。いや~神が降りてきましたね。ここで打ったら、日本はもの凄いことになると思って自分で実況しながら打席に入った。そうなるといつもは結果が出ないんですけど…。いやあ、ちょっと1つ壁を越えられた気がしますね」。

 準決勝の米国戦終了時点で、第2ラウンドでのイチローは24打数4安打、打率1割6分7厘。アメリカに渡って以来、チームのバッティングの調子は上向き状態。その中でイチローは完全に“蚊帳の外”だった。チームリーダーとして少しでも貢献しようと、敗者復活戦のキューバ戦では自分の判断で送りバントを試みた。

 慣れないことはするものではない。案の定失敗した。ベンチに戻ると、イチローはナインに謝った。「ゴメン。オレ、ヘコみそうだわ」。隣に座っていた城島健司捕手(マリナーズ、2010年から阪神)はすかさず言った。「大丈夫ですよ。イチローさんがしっかりするまでオレたちがつなぎますから」。すまない、という気持ち以上にイチローの中で何かが動いた。

 これで吹っ切れた。チームリーダーは決勝で本来の姿に戻って6打数4安打。得点に絡んだのは勝ち越しの2点タイムリーと、7回の3点目での生還の2度だけだったが、それ以上にイチローの復活は、日本代表に活気をもたらし韓国の4人の投手から15安打の猛爆。終始押しまくって、少ないチャンスで対抗した相手を力づくで押し切った。

 イチローの影響を受けた男がイチローの中前打で決勝のホームを踏んだ。国際大会は初めての内川は2月の宮崎合宿中、イチローに尋ねた。「内角球を詰まらせて打つって本当ですか?」。詰まるのが大嫌いでポイントを前にして打っていた内川。08年に首位打者となり、ボールを呼び込んで打つ極意を体得したが、それでも詰まりながらのヒットはあまり格好のいいものではないと割り切れない部分があった。

 イチローは答えた。「本当だよ。クリーンヒットより、そっちの方がダメージを与える」。延長10回、先頭打者は内川。逃げ切りを図ってダルビッシュ有投手(日本ハム)を投入も、同点に追いつかれた直後。出塁するかしないかで、試合の流れが大きく変わる場面だった。 「ムードをオレが変える」。そう誓って打席に入った内川の打球は、どん詰まりだったが右前に落ちた。無死一塁。土壇場で追いつきイケると思っていた韓国のムードが急にしぼんだヒット。極端な話、イチローの決勝打は出るべくして出たのだった。

 次のWBCは2013年。イチローは40歳になる。次の大会も出場する?との問いにイチローは笑った。「むちゃな質問しますねぇ。4年後は生きているかどうかも分からないですかねぇ。どうなんでしょうかその質問は…って感じですね」。そう言いつつ、表情はまんざらでもなさそうだった。


【2010/3/24 スポニチ】
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