【3月26日】2005年(平17) 

 【楽天3―1ロッテ】握手攻めにあう指揮官の目がみるみるうちに潤んでいった。千葉マリンスタジアムの三塁側ベンチ。半世紀ぶりに誕生した新球団、東北楽天ゴールデンイーグルスがロッテに勝ち、その歴史に残る大きな一歩を踏み出した瞬間、初代監督、田尾安志監督は力強く、そして感謝の気持ちを込めてコーチ陣、選手の手を取った。「握手する時に、その人の思いを考えたら、うるってきてしまって…」。

 いつかは勝てるだろうが、それが開幕第1戦で実現するとは…。願っていたこととはいえ、あまりにも出来すぎのスタート。「何て言うか、異様な雰囲気の中でエースのピッチングに応えてちょっとだけ点が取れた。選手にとって大きな勇気になる。選手の力で本当にもぎ取った勝利だね」。興奮しているのがありあり。声も上ずっていたが、その言葉も普段理路整然と話す田尾監督とは思えぬほど、あちらこちらに飛んだ。

 田尾監督が称えた「エースのピッチング」をしたのが岩隈久志投手。被安打5奪三振7失点1の122球、堂々の完投勝利だった。「ただの1勝と違う。粘って粘っての勝ち。正直疲れたけど、最後はみんなの勝ちたいという思いだけでした」。

 初回から全力投球だった。最速147キロの真っ直ぐが最後は130キロ台前半にまで落ちるほど限界ギリギリまで投げた。終盤はトレーナーのマッサージを受けながらマウンドに登ったほど。最終回は4番ベニー・アグバヤニ中堅手からの中軸相手も3者凡退で終わらせた。

 近鉄とオリックスとの合併でオリックス側にプロテクトされながらも、どうしても納得いかずに新球団で出直す道を選んだ。関西に残っていた方がよかった…という後悔だけはしたくなかった。開幕戦でエースがKOされれば、絶対に他球団にナメられる。プロ6年目、初登板の時以上に気合いの入ったマリンのマウンドだった。

 岩隈は「野手の守りにも助けられた」と勝因を分析したが、その代表格が高須洋介二塁手の隠れたファイプレーだった。6回2死一塁でのロッテ・福浦和也一塁手の二ゴロ。一、二塁間を抜けようかという当たりだったが、追いつきピンチの芽を摘んだ。「投げる前に2歩程度一塁寄りに動いた。フォークを投げるサインだったし、だったら一塁よりのゴロになると…」と高須。この日、高須がゴロとライナーで直接打球を処理したのが7本。うち3本は守備の“位置取り”がアウトにしたといっても過言ではないものだった。

 現役時代、名遊撃手として活躍した楽天・山下大輔ヘッドコーチは「ベンチの指示以上に大切なのが野手の感覚。高須が岩隈を救ってくれた」と絶賛。打撃でも初回に新チーム初安打となる右前打を放ち、3回には先制点のきっかけを作る二塁打とバットでも大活躍。分配ドラフトで近鉄の中心選手の多くがオリックス入りした中で、仙台へと行かざるを得なかった男が意地を見せた開幕戦だった。


【2010/3/26 スポニチ】
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