【7月25日】1978年(昭53) 

 【全セ8―5全パ】プロに入ったときからの夢は、高々と舞い上がった白球が右翼スタンドに着弾した瞬間、かなった。

 オールスター第3戦(後楽園)の4回、全セの3番掛布雅之三塁手(阪神)は、日本ハム・佐伯和司投手からソロ本塁打を放った。「いつかはと思っていたが、ようやく打てた。広島にいた佐伯さんは74年にプロ入りした時に、僕が初めて本塁打を打った時のピッチャー。なんとなく予感はあった」と笑った掛布。球宴出場は3年連続3度目。初めて一人でゆっくりとダイヤモンドを一周することができた。

 初出場の76年は“若虎”ともてはやされたが、スタメンではまだ出してもらえず3打数0安打。2年目、阪神の顔になりつつあった背番号31は、第1~3戦ですべてスタメン出場。第1戦(平和台)の第1打席で、太田幸司投手(近鉄)から左前打を放った。それでもヒットはこの1本のみで3試合を終了。通算12打数1安打。3度目の出場で期するものがあった。

 初戦は6番で2安打を放ち、優秀選手賞。地元甲子園での第2戦は0―9と全セが大敗した中で、一人で2安打を放ち敢闘賞を受賞。そして迎えた3戦目。打順は3番に昇格。2打席目に美しいアーチを描いた。

 5回の3打席目。今度は阪急の佐藤義則投手のストレートをたたいた。弾道は1発目とほぼ同じ。これも右翼スタンドに吸い込まれていった。「球のスピードもなかったけど、しかしよく飛ばすねぇ。まいったよ」と佐藤。第1戦で広島のヘンリー・ギャレット左翼手が2打席連続弾を放ち、掛布もそれに続いた形となったが、1試合3発を記録したギャレットも3打席連続ではなかった。

 8回、運命の打席が回ってきた。「カケ、狙って行けよ!」ベンチにいたチームメートの田淵幸一捕手が声をかけたが、ここまできた以上、言われなくても分かっていた。

 マウンドはパ・リーグが誇る速球王・山口高志投手(阪急)が上がっていた。振れている掛布に中沢伸二捕手(阪急)は、山口の武器であるストレートではなく、カーブから入った。打ち気にはやる掛布の気をそぐ意図があった。

 2球目もカーブ。これが内角高めに甘く入った。肘をたたんでコンパクトに振り抜いた打球は、みたび右翼へ。打った瞬間にそれと分かる打球は、超満員のスタンドに。球宴史上初の3打席連続本塁打。すべてソロだったが、この3発が効いた全セが勝ち、2年連続2勝1敗で勝ち越し、分が悪かった全パとの対戦成績を29章43敗3分とした。

 文句なくMVPに選ばれた掛布。3試合で10打数7安打、18塁打、5長打も新記録で「自分でも怖いくらい。何かヘンなことがなければいいが…」と心配する始末だった。

 阪神を代表するスター選手、田淵はこの球宴で7打数無安打に終わった。タイガースの看板が架け替えられたような一戦だったが、田淵に西武へのトレード通告がされるのは、それから約4カ月後のことだった。

【2011/7/25 スポニチ】
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