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【3月13日】2006年(平18) 

 【米国4-3日本】良くも悪くも「WBC」という大会が、日本人にしっかり認識されたのが“あの試合”だった。

 シアトル・マリナーズのイチロー外野手の先頭打者本塁打で始まった“あの試合”は3時間9分後、阪神・藤川球児投手のストレートを二遊間に運んだニューヨーク・ヤンキース、アレックス・ロドリゲス内野手のサヨナラヒットで終わった。最初と結末を言ってしまえばこういうことだが、やはり最大のハイライトは3-3で迎えた8回表、日本の攻撃しかしかない。

 1死満塁で打者は6番・岩村明憲三塁手(ヤクルト)。ミネソタ・ツインズのネーサン投手の速球を強振した打球は、レフトに舞い上がった。リードをとっていた三塁走者の西岡剛二塁手(ロッテ)が三塁ベースに戻る。左翼手がグラブに白球を収めた瞬間、これ以上ないと言っていいほどジャストのタイミングで西岡はスタートを切った。懸命のバックホームも球は内野に戻っただけ。西岡は既にホームベースを駆け抜けていた。

 4-3。日本代表はメジャーリーガー揃いの米国相手に再度リードを奪った。まだ試合が終わったわけではないが、親善試合ではない日米の真剣勝負で歴史的勝利に1歩近づいた。

 「スタートが早かった。捕球前だった」と抗議する米国側。しかし、西岡のスタートを確認していたナイト二塁塁審は「問題ない」とアピールを受け付けなかった。

 ところが、である。米国のマルティネス監督がデービッドソン主審に抗議すると、一番近くで見ていた二塁塁審の判定を何の相談もなく覆した。主審が下した判定は、西岡のスタートが早く三塁にボールが転送されてダブルプレー。勝ち越しどころか、満塁の好機は一瞬にして“潰された”。

 事実は二塁塁審の判定どおり。タッチアップは正当で、西岡のスタートは早くはない。それは紛れもない事実である。そもそもデービッドソンが判定を覆したこと自体が越権行為なのであった。

 走者が満塁の場合、三塁走者のタッチアップは主審が確認することに審判マニュアルには記されているが、米国側のアピールによって先に判定を下したのは二塁塁審。野球規則9・02の(c)はこう定めている。「裁定を下した審判員から相談を受けた場合を除いて、審判員は他の審判の裁定に対して批評を加えたり、変更を求めたり、異議を唱えたりすることは許されない」。手順の違いはあったにせよ、デービッドソン球審の行為は明らかに“ルール違反”であった。

 ちなみに彼の言い分はこうである。「二塁塁審に判定の権限はない。それが最初に判定を下してしまった。私は離塁が早いと判断した」。審判歴は30年近く、メジャーでのキャリアもあったデービッドソンだが、またの名を“目立ちたがり屋のトラブル審判”“ボーク・デービッドソン”。判定を覆しては注目され、ボークをやたらとることで有名な個性派審判だった。

 サヨナラ負けの瞬間、日本代表の王貞治監督は身じろぎもせず、怒りに肩を震わせたナインが帰ってくるまで、さっさとロッカーに引っ込むこともなく、歓喜に沸くメジャーリーガーたちを凝視していた。例の判定についてはひと言こう話し、それ以上は未練たらしいこともいい訳めいたことも一切口にしなかった。「日本で長年野球をやってきて、こんなことは見たことがない。野球がスタートしたアメリカでそういうことがあってはいけないと思う。世界中の人が見ている」。親善試合ではなく、本気勝負の試合で自国のチームの試合を判定するという仕組まれたショーのような試合は、アジアの小国の野球に負けるわけにはいかないアメリカのベースボールの“疑惑の勝利”で終わった。

 皮肉なことにこの誤審試合の後、日本でのWBCの注目度は急上昇。かなり運に恵まれたとはいえ、最終的に初代世界一になったという結末を迎え、ストーリーはさらに盛り上がった。09年の第2回の連覇の期待が大きく膨らんでいるのも、試合に勝つだけでなく、栄光に至るまでの何かしらのストーリーを、日本人が侍ジャパンに求めているからなのだろう。

 宿敵韓国に敗れ、A組2位で臨む第2ラウンド。判定に問題はない相当な試合での敗戦だったが、劇的な物語には欠かせない、挫折の要素が今回も生まれた。さあ、結果はどうなるか。あの“目立ちたがり屋”は今回いないが、3月15日(日本時間16日)、米国でまた新しいドラマが始まる。


【2009/3/13 スポニチ】
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