変装して奇声を上げながら8人を次々と刺した24歳。電車待ちの男性を後ろから突き落とした18歳。若者による無差別殺人が茨城、岡山両県で相次いだ。おとなしい性格、人付き合いが下手、大学進学をあきらめながら職探しが進まない…。2人の共通点はいくつも見られる一方で、まったく異なる面も。24歳の“異常さ”が、“普通”でちょっと不幸な18歳に乗り移ったかのようにも見える。「殺すのは誰でもよかった」。ともにこう供述した若者2人は、なぜ通り魔に変わったのか-。





 ■「駅」「ナイフ」「無差別」…岡山事件は模倣犯?





 「ワーワー」



 両手に文化包丁(刃渡り約30センチ)とサバイバルナイフ(同33センチ)を持った男が奇声を発しながら、茨城県土浦市のJR常磐線荒川沖駅構内を西口から東口に全速力で走る姿が目撃されたのは、3月23日午前11時ごろだ。



 スーツにニット帽という異様な姿。男はその勢いのまま、改札口付近で5人を無差別に切りつけ、駅に隣接するスーパー「長崎屋」に通じる歩道橋で3人に襲いかかった。このうち首を刺された同県阿見町の会社員、山上高広さん(27)が出血性ショックで死亡。ほかの男女7人が重傷を負った。



 買い物客らでにぎわう日曜日の駅周辺は、あっという間に惨状に変わった。



 「私が犯人です。早く捕まえてください」



 駅から約300メートル離れた交番から土浦署に連絡した男は、何の抵抗も見せず取り押さえられた。



 男は土浦市の無職、金川真大(かながわ・まさひろ)容疑者(24)。金川容疑者は、無差別凶行の4日前の19日午前9時すぎ、近くに住む無職の三浦芳一さん(72)の首を自宅玄関前で刺して殺害していた。茨城県警は殺人容疑で指名手配しており、逮捕時の容疑は三浦さん殺害だった。



 一方、岡山市のJR岡山駅内で男性が線路に突き落とされ死亡する事件が起きたのは、土浦の8人殺傷事件から2日後の25日夜だった。



 事件の概要はこうだ。



 大阪府立高校を卒業したばかりの大阪府大東市の無職少年(18)は25日午後11時すぎ、残業したサラリーマンらでごったがえすJR山陽線下りホームで、電車待ちの列の先頭に並んでいた岡山県職員、仮谷国明さん(38)の背中付近を両手で押し、線路に突き落とした。仮谷さんはホームに入ってきた瀬戸発岡山行き普通電車(4両編成)にはねられ、約5時間後に出血性ショックで死亡した。



 少年は犯行直後、県警鉄道警察隊員に殺人未遂(送検時に殺人容疑)で現行犯逮捕されたが、果物ナイフ(刃渡り約12センチ)を持っており、当初は人を刺そうと駅周辺をうろついていたのだという。



 駅、ナイフ、面識のない人物への犯行…。



 事件の概要を見ただけでも、2つの事件に共通するキーワードはいくつもある。



 犯行前日の24日夜。少年は一家で食事中、テレビニュースで8人殺傷事件を見た。



 「こんなことしたら、あかんで」



 父親からそう言われ、少年は普段通り答えていた。



 「うん」



 その数時間後の25日朝、少年は大阪の家を出る。



 そして仮谷さんを殺害。金川容疑者による8人殺傷事件に触発され、少年は「模倣犯」と化したのだろうか。



 「何らかの外的な要因がきっかけで、爆発する可能性のある若い人たちは、潜在的に多い」



 静岡大の間庭充幸名誉教授(犯罪社会学)は連鎖的な凶行を心配している。





 ■進学断念、職探し難航…共通する「閉塞感」





 2人の性格やこれまでの人生を振り返ると、さらに一致する点が出てくる。



 金川容疑者は高校時代、遅刻と欠席が3年間で1回ずつという勤勉な生徒だった。



 弓道部に所属し、2年生のときには全国大会に出場するレベルにまで達していた。



 「まじめで何事にも一生懸命やる子。目立たなくて、おとなしかった」



 学校関係者は金川容疑者をそう評している。



 一方、少年も高校3年間の欠席が2日だけしかなく精勤賞の表彰を受け、「まじめ」(学校関係者)で通っていた。中学時代は体格の良さを生かしてアメリカンフットボールをやっており、高校時代は放送部に所属していた。「非常におとなしい」(同級生)という内向的な性格も金川容疑者と一致している。



 “行き場のない境遇”も似ている。



 土浦事件の金川容疑者は高校3年で部活を辞めてから、学業に意欲を失い、大学進学希望を就職希望に変更した。しかし、地元企業の採用試験を受けたが不採用となり、定職につくことはなかった。アルバイトを転々とし、今年1月にコンビニエンスストアのバイトをやめてからは引きこもりがちになった。



 「あまり外出せず、友達も多くなかった」(後輩)



 「朝昼兼用の食事を1人で取っていた」(家族)



 両親と妹2人、弟1人の6人家族だったが、一軒家の2階を1人で独占し、高校卒業後にますます孤立感を深めていったようだ。



 一方で岡山事件の少年も「トップクラスの成績」(高校の校長)といい、東大や京大など国立難関校への進学を目指していたが、家庭の経済的な事情で進学をあきらめた。



 「親から『貧乏だから、今年の進学はやめてくれ』と言われた」



 昨年10月ごろ、少年は高校側にこう伝えていた。



 父親には「簿記の資格を取って仕事をしながら、進学費用をためる」と話していたが、昨年12月に簿記3級を受け失敗した。職探しも難航。このころ、小中学校の同級生にこう嘆いている。



 「就職活動をしているが、仕事が見つからず難しい」



 少年の父親によると、犯行前日の24日もハローワーク(職業安定所)に行き、いくつか就職先を探していたという。



 閉塞(へいそく)感にさいなまれていたとみられる2人。



 金川容疑者はゲームや漫画のバーチャル世界に逃げ込むことで紛らわせていたようだ。部屋には漫画とゲームソフトが山積みになっていた。三浦さんを殺害後は東京・秋葉原に逃走していた。



 「アキバ(秋葉原)はゲームの街。自分はメイドカフェには行かない」



 金川容疑者は知人にこう公言していた。



 一方、少年もゲームソフトを少なくとも数十本持っていたことがあり、ゲーム好きだったことがうかがえる。





 ■少年に「キレる」乗り移った?





 共通点が多い半面、まったく異なる点もたくさんある。進学断念も金川容疑者が自分の都合だったのに対し、少年は「貧乏」という家庭の事情があった。



 性格も「まじめでおとなしい」までは共通しているが、金川容疑者には「キレやすい」(後輩)が加わる。よく事件現場近くのゲームセンターにいたが、格闘技ゲームに負けると、「何だよ!」と突然声を上げ、ゲーム機を蹴り上げる姿が目撃されている。



 少年については学校関係者が「いわゆる優等生で、突然キレるような子ではなかった」と証言する。



 小中学生のころは言葉や暴力の陰湿ないじめを散々受けていたが、本気になって反論することはあっても、激高することはなかったという。



 ただ、父親が「いじめの経験が心に少し残っていたのかなと思う」と話したように、鬱憤(うっぷん)が内に蓄積されていたことも考えられる。



 端的に2人の違いが表れているのが、犯行時だ。



 金川容疑者は…



 (1)1~2月に包丁とナイフを用意している。



 (2)妹の殺害と小学校襲撃を計画していた。



 (3)逃走資金とみられる約40万円を自分の口座から引き出す。



 (4)三浦さん殺害後、母親の携帯電話に「おれが犯人だよ。犠牲者が増えるよ」と犯行予告をメールした。



 (5)警察捜査を撹乱(かくらん)するため、変装用のスーツを購入した。



 (6)逃走時、110番して本名を名乗り、「早く捕まえてごらん」と警察を挑発している。



 このように「確信的な殺意」がみられ、計画性も非常に高い。



 また、自室の壁に赤い文字で「死」「Z」などが書かれていたほか、ドアを拳で複数回殴ったような跡があった。さらに、2台所有する携帯電話のうち自宅に置いた1台にこんなメールを送信していた。



 《私は正義、支配者、神だ》



 奇行に加え、異常性も目立つ。



 これに対し、岡山事件の少年の行動には、行き当たりばったりの感がある。



 25日午前8時半ごろに家出し、まずは私鉄を乗り継いで兵庫県姫路市に行った。タクシーでJR網干駅に向かってJR山陽線に乗り、午後7時ごろに岡山駅に着いた。「行く先も決めず、ただ電車に乗った」という。



 犯行時も、人を刺そうと駅周辺をうろうろしたが決心がつかず、ナイフもバッグに入れたままだった。携帯電話も家に置いて出てきており、突発的に家出して犯行に至った-という印象を抱かせる。



 いじめ、進学断念、就職難…。金川容疑者の犯行をニュースで見た少年にその異常性が乗り移り、少年のさまざまな鬱憤が一気にあふれ出たかのようだ。



 中央大の藤本哲也教授(犯罪学)は言う。



 「社会が閉塞状態だと不満を爆発させるような事件が起きる。少年など社会の弱者がストレスに一番反応しやすく、土浦市の8人殺傷事件に触発された可能性もある」



【2008/3/30 MSN産経ニュース】
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