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理想像 飽くなき探求

新しいシーズンへ向かう金本には、一つの取り決めがある。オフの自主トレを始める前に、平岡洋二が代表を務める広島市内のジムで、春季キャンプに入る際の体重を設定することだ。

広島から阪神へのFA移籍を決断した2002年オフの設定値は、前年を3キロ下回る88キロだった。34歳で迎える移籍1年目のシーズン。「動けない、と言われるのが嫌だから」。体を絞って挑む覚悟を、金本は平岡に告げた。

以来、88キロがキャンプに臨む体重となった。ところが昨オフ、平岡に申し出た数値は違った。「91キロにしたい」。聞いた瞬間、平岡の脳裏には、「本塁打王」のタイトルが明確に浮かんだという。

「今まで絞り気味でやってきたのは、下半身への負担を考え、けがのリスクを減らすため。体重増によるリスクを背負ってまで、本塁打数を増やしたいんだと思った」。より大きな筋肉をつけることでパワーアップを、という意図だ。

昨年の金本は打率3割2分7厘がリーグ3位、40本塁打、125打点がともに2位。いずれも自己最高の成績を上げながら、「面白くない。三冠王を取りたかった」と平岡に漏らした。

最も悔しがったのは、「自分のコピー」とまで言い切る広島の後輩、新井に3本差でさらわれたホームランキングの座。「広島市民球場を除いた本塁打数で勝負しようや」と新井に挑戦状をたたきつけたほどだ。

そんな2人のやり取りを間近で聞いた平岡は、安堵(あんど)感に包まれた。「記録達成で気が抜けるんじゃないかと心配したが、大丈夫だなと」

「36歳で気づいた」という〈バッティングの理屈〉は、3度の三冠王に輝いた落合博満(中日監督)の打撃理論に関する本がきっかけだった。だが、今の打撃スタイルが完成型とは思っていない。理想像について、金本は「今とバットの出し方が違うから、まだ意識しないとできない。無意識に出来るようにならないとね」。その探求心が萎(な)えることはない。

バットは振れている。本塁打も8試合で3本。オフに聞いた言葉を思い出す。「(元南海の)門田さんが40歳でつくった44本塁打は、励みになる数字」。世界記録を通過点に、金本はさらなる高みへと歩き始めた。(敬称略)

(この連載は、門脇統悟、風間徹也が担当しました)

(2006年04月12日 読売新聞)
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