close
【1月14日】1989年(平元) 

 昭和天皇崩御から1週間。平成という新年号はまだしっくりとこなかった。日本国中がまだ喪に服するかのように静まり返っていたこの日、東京・芝の東京プリンスホテルでは明大野球部卒業生送別会が行われた。元来は島岡吉郎総監督の勲四等旭日章受勲祝賀会の予定だったが、めでたいことが自粛ムードの中で取りやめとなり送別会へと趣旨を変えての会だった。

 その席に姿を見せたのは88年、就任2年目でセ・リーグ優勝を勝ち取った星野仙一監督。島岡総監督に一番殴られ、それでも師と仰いだ男は明大野球部の素晴らしさをこんなスピーチで示した。

 「中日には5人の明大卒がいます。2軍監督の岡田(英津也)さん、ピッチングコーチの池田(英俊)さん、そして加藤(安雄バッテリーコーチ)、高橋(三千丈2軍投手コーチ)、豊田(成佑外野守備走塁コーチ)と若いコーチがいます。監督だけでは何もできないのがプロ野球です。スタッフがすべてに手を貸してくださって、はじめて優勝というものがあるとつくづく感じました。学閥を作ったわけではなく、いい人を集めたら明大出身者だった」。

 鬼の島岡に星野が薫陶を受けたのは65年(昭40)からの4年間。岡山・倉敷商高から明大に進み、1年生からベンチ入りした星野について島岡は「あんなに気の強い男は明大野球部史上初めて」と舌を巻いた。

 慶大戦でのこと。明大の一塁手がスライディングで倒されると、その慶大の打者走者を追い回し、乱闘寸前までなったこともあった。判定に不服な時には審判に食ってかかりそうになるという学生野球ではそれまであり得なかった態度を取ることもめずらしくなかった。

 ストレートの速さは驚くほどではなかったが、内角の厳しいコースを突ける制球力があった。1年秋には早くも主戦投手に成長。2年生の秋には対立教2回戦でノーヒットノーランを達成した。

 六大学通算23勝。しかし、星野が投げた7シーズンでの最高順位は、67年秋と68年秋の3位で優勝には一度も縁がなかった。星野の通算防御率は1・89という好成績だったが、打線が振るわず好投してても負けるケースが少なくなかった。

 この大学時代の経験は、進路を決める大きな指針となった。「強力な援護がある打線のチームで投げたい」。プロ志望の星野はできるなら、王貞治、長嶋茂雄のONを打線中心とした巨人でやりたいという気持ちが強くなった。子供の頃からアンチ巨人の阪神ファンだったが、生涯野球でメシを食っていくとなれば別だった。

 それにタイガース入りは後見人である島岡が許さなかった。3年前、阪神がドラフト2位指名した藤田平内野手(市和歌山商高)は明大に進学予定だったのにもかかわらず、阪神が強奪。それを島岡は長らく許すことはなかったという。以後81年まで平田勝男内野手が2位指名されるまで17年にわたり、阪神は事実上明大の選手をドラフトで指名できなかった。

 星野の巨人への気持ちを知りつつ、一番熱心だったのは中日だった。担当の塚越スカウトは千葉県市川市から明大グラウンドが近い都内に引っ越し、3日と開けずに星野に熱視線を送った。巨人も明大出身の沢田スカウトが担当で星野指名の可能性は十分にあった。

 68年ドラフト直前になって星野株はさらに上昇。大洋なども指名を検討したが星野は「巨人、中日以外なら、先輩がマネジャーをしている日本楽器(現ヤマハ)にお世話になる」とし、ドラフトでの指名を待った。女手ひとつで育ててきた母は「野球はもういい。まじめなサラリーマンになってほしい」と、亡くなった星野の父親が勤めていた三菱重工水島への就職を希望していた。

 そして68年11月12日のドラフト当日。「星と島を間違えたんじゃないか!」という有名な言葉で分かる通り、大本命の田淵幸一捕手(法大)を阪神にさらわれた巨人は、星野ではなく、神奈川・武相高の右腕、島野修投手を1位指名。星野は獲得を熱望していた中日に1位指名された。

 その後の星野の巨人に対するむき出しの闘志は記すまでもない。74年、巨人のV10を阻んだのは、ストッパーとして大活躍した星野を擁した中日だった。

 巨人は六大学でも屈指の好投手をなぜ指名しなかったのか。沢田スカウトは、投手として大切な度胸はプロ向きだが、正直なところ実力はそれほど評価していなかったとみられる。加えて巨人・川上哲治監督には「星野は肩を痛めている」との情報がもたらされたようで、堀内恒夫投手の例もあるように、真っ直ぐに力のある高校出の投手を好む川上はどうしても星野、という気にはならなかった。

 星野は対巨人戦35勝31敗で通算146勝121敗。島野は通算1勝4敗。今さらではあるが、星野が巨人入りしていたらと思うと興味は尽きない。

【2008/1/14 スポニチ】
arrow
arrow
    全站熱搜

    ht31sho 發表在 痞客邦 留言(0) 人氣()