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イチローが実践している“変わらないこと”の積み重ね

 グラウンドに出てくると、イチローはいつもと同じストライドで走り出し、小気味よくアップを開始する。オリックス時代も、マリナーズ時代も、ヤンキースに来てからも、それは変わらない。変わらないことの難しさは、野球選手なら誰しもが知っている。今年は40歳で迎えるシーズンであり、髪型や顔の表情には年輪を重ねた跡が見え始めているが、それでも颯爽とダイヤモンドを駆け抜ける姿は、いつまでたっても絵になる。

 3月3日のナショナルズとのオープン戦でのことだった。イチローはワンバウンドのボールが右すねに当たったが、デッドボールと判定されず、プレーが続行となった。「審判に確認をして、捕手にも確認したら、爆笑してました」と相手選手が死球にならないことに対して、笑っていたという。イチローは「ルールが変わったのかと思いました」と苦笑いを浮かべるしかなかった。

 患部は少し腫れていたという。当たった部位のケアの話になると、「これくらいは放っておけば大丈夫です」と特に問題視していなかった。「腫れる=冷やす」という風に治療をしがちだが、イチローはこのようなケースでは「冷やすことは絶対にしません」と語った。経験上、どのような治療法が自分にとってベストなのかを理解している。つまり、自分の体についてイチロー自身が一番分かっているのである。

 イチローのすごさとは一体、何なのか。打撃の技術や選球眼、守備、走塁、打球判断、肩の強さなど、素晴らしい点を挙げていけばきりがない。ただ、そこで他の野球選手が必ず挙げることがある。それは「怪我をしない体を持っていること」だ。

 日米通算で4000安打を達成できたのも、長い期間の戦線離脱がなかったがことが大きな要因の一つだった。

 2009年のWBC直後に胃潰瘍で数試合欠場したことはあったが、肩や肘、太ももやふくらはぎなど、選手だったら誰もが痛めそうな部位の怪我を経験していない。していないというのは語弊があるかもしれないが、あったとしても長期離脱してチームに迷惑をかけるという形にはなっていない。


昨日と違う自分がいるかどうかの確認作業

 40歳になって若い選手たちと一緒にレギュラー争いをしているのも、体が丈夫だからできることである。常に最善のケアをして、試合に臨む。イチローのすごさは、ここにもある。

 イチローはシーズン中のルーティンを崩さない。そんな姿を見たある選手はイチローのすごさをこのように語っていた。

「イチロー選手は、自分を主観的にも客観的にも見ることができる。毎日、同じ動きをすると、逆にいつもと違うことにも気が付く。今日は(体の)ここが少し違うなと感じれば、そこを重点的にケアする。怪我を未然に防ぐことをしている。それが、イチロー選手がルーティンを大事にしている理由だと思う」

 ルーティンを大事にする選手は多い。験担ぎを理由にする選手や、それをやらないと落ち着かない選手、自然と習慣化されている選手など様々だが、前述の言葉を踏まえれば、イチローの場合は昨日と違う自分がいるかどうかの確認作業をしていると見ることができる。

 怪我をしない理由については、食事面での体調管理や、毎日のコンディショニングなど多くの理由があるだろうが、そうやってルーティンを大切にする継続力も、イチローという偉大なアスリートを大きく支えているに違いない。

 老け込むにはまだ早い。磨き上げてきた技術と積み重ねてきた日々の努力があるからこそ、イチローは40歳となった今も、目の前に立ちはだかる苦境に抗い続けることができるのである。

【了】

フルカウント編集部●文 text by Full-Count
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