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<阪神3-2巨人>◇27日◇甲子園

球児がよみがえった。連敗を5で止めた。奇跡を信じて泣いた。1-1同点の8回表、藤川が8月9日横浜戦以来、18日ぶりに1軍マウンドに上がった。最速152キロの速球で高橋由、李から連続三振を奪い、3人で片付けて、その裏の勝ち越しを呼んだ。9回、二岡に今季初被弾を食らうも2イニングで圧巻の5K。お立ち台では、周囲のあきらめムードに反発し、涙でネバーギブアップをアピールした。9ゲーム差、優勝マジック26の中日と29日から甲子園で3連戦。何かを起こすのは、やはり球児だ。

涙があふれ出ると、言葉が出なくなった。お立ち台の藤川が感極まって絶句した。10秒、15秒たっても口を開けない。「チームが連敗してファンの方も悔しいと思うけど、選手も悔しいと思ってやってますんで……」。そう言ったきり、熱いしずくが止まらなくなった。うれし涙ではなく、悔しさからくる涙だった。

思いはボールにぶつけた。8回表、「ピッチャー藤川」のコールに本拠地は今季最大級の盛り上がりを見せる。9日横浜戦(横浜)で1/3回を投げて以来、18日ぶりのマウンド。甲子園となると7月30日のヤクルト戦以来だった。

初球は高くそれるバックネットへの暴投。それでも先頭鈴木を三ゴロに片付けると、高橋由、李にはオール150キロ超で勝負した。高めに伸び上がる直球は、右肩、首に起きたアクシデントを感じさせない。ケガの後150キロに届かなかった球速が152キロに達し、連続の空振り三振を奪った。

2イニング目の9回表、二岡に今季初の本塁打を浴びたが、残る3人は空振り三振で抑え込んだ。最後の代打斉藤を仕留めると、集まってくるナインに4度、5度と帽子をかぶっては、脱いで感謝。5三振を奪って復活を強く印象づけた。

だからといって「自分に感動したわけじゃない」。お立ち台で泣くのは、先発でプロ初勝利を挙げた02年9月11日のヤクルト戦(神宮)以来2度目。だが今回の涙は、チームとともにあった。

「自分もケガでいなかったけど、その時にチームが苦しいのは分かっていた。本当にファンもマスコミも含めて、選手、監督、コーチが作戦とかを考えてやっているのを分かってほしいと思っていました。何のために投げているのかっていうのを分かってもらいたかった。温かく見守ってほしいんです」

首位中日とのゲーム差が開くと、時に痛烈なやじが耳を襲い、マスコミの報道に心を痛めた。自身は7月30日ヤクルト戦で3イニング投げたのを境に、変調をきたしていた。右肩に張りが出て全力投球できなくなり、さらに首を寝違えた。中日との首位攻防戦のさなかだった12日に登録抹消。チーム成績は下降線をたどり、胸を締めつけられた。常勝を求める周囲を、冷酷にさえ感じるようになった。

そんな時、心の支えになってくれたのがチームメートだった。この日の練習前、ブルペンに中継ぎ陣が集った。「最近、中継ぎがよくないから」。ウィリアムスが音頭をとって、みんなで小さな炎に祈りをささげた。ただ新聞紙を燃やすだけの儀式だったが、1つになって戦う気持ちを思い出させてくれた。孤独なマウンドにいても、1人じゃなかった。

お立ち台で言葉を取り戻した藤川が、かすれた声で続けた。「言葉も出ないくらいの気持ちで…。本当に苦しい時ですけど…。まだまだファンの皆様のために頑張っていることを分かって下さい」。

復活の27球が逆転Vにつながることを、藤川は信じている。今季5勝目を挙げ、29日からは本拠地での中日3連戦。ありったけの力を振り絞って、火の玉ストレートを投げ込んでいく。【浜田司】

【2006/8/28 大阪Nikkansports】
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