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【6月21日】2001年(平13) 

 【阪神1-0巨人】指揮官が言うとおり、カーブは打てない。ならばと狙ったストレート。快音を発したバットから弾き返された打球は、センターの頭上を楽々越えた。

 9回裏、無死満塁で阪神の代打・広沢克実外野手が放ったサヨナラヒット。相手投手は巨人・岡島秀樹だったが、サヨナラの走者を許した上原浩治が敗戦投手。前年から10連敗中の天敵に17年目39歳が土をつけた。

 この瞬間を待ちわびていたタイガースファンのボルテージは最高潮に達した。それもそのはず、前夜に続いて憎き巨人に2試合連続サヨナラ勝ち。実に80年5月23、24日に佐野仙好外野手と竹之内雅史外野手のそれぞれサヨナラ安打で勝って以来、21年ぶりの対巨人戦連続サヨナラ劇だった。

 「左がきたら行くぞ」と言っておきながら、代打・広沢に野村克也監督は迷った。岡島のウイニングショットのカーブに「広沢じゃ、バットに当たらんやろ。当たってもゲッツーじゃ困る…」と考え込んでしまった。

 打順は4番イバン・クルーズ一塁手。左対左になるより、右の広沢の方がなんとかしてくれる確率は高い。しかし、4番に代打を出すことは「長いシーズンを考えた時勇気がいる。クルーズのプライドもあるし…」(野村監督)。それでも、勝機はここしかない。野村監督は過去サヨナラ打7度のベテラン起用を決断した。

 初球はカーブが大きく外れ、2球目は直球をファウル。3球目もカーブでストライクは入らなかった。カウント1-2。四球を出せば終わり、しかも最大の武器のカーブが決まらない。こうなると狙い球は1つしかなかった。会心の当たりは松井秀喜中堅手の真上を襲った。

 ピンチヒッターが場内アナウンスされた時、甲子園の虎党の反応は微妙だった。歓声半分、ため息半分のスタンド…。4月25日、同じ甲子園での巨人5回戦。同じ9回、満塁の場面で広沢は岡島に右飛に打ち取られていた。試合は1点差、5-6で敗れた。その時の光景を鮮明に覚えているファンの目は厳しい。期待半分、あきらめ半分のファンの懐疑的な視線を背に受けて広沢は打席に立った。

 一転して殊勲打のヒーローとなった広沢に今度は拍手喝さいの嵐。気を良くした広沢はお立ち台で約束してしまった。「今度ここに立てたら六甲おろしを歌います」。

 8月14日、広島19回戦。広沢は本塁打を放ち、5-3でチームは勝った。お立ち台に呼ばれると、広沢はファンを“けん制”した。「前もって言っておきますが、六甲おろしは歌いません。一世一代ののことなので、甲子園で歌います」。高校野球で甲子園を明け渡していた、阪神は主催ゲームだったが、試合は大阪ドームで行われていた。

 それから約2週間後の巨人24回戦。5番・一塁でスタメン出場した広沢は6回に高橋尚成投手から左翼へ値千金の勝ち越し本塁打を放った。「ホームラン?それどころじゃないよ。ドキドキしている」と、お立ち台に立つといよいよ約束を果たす瞬間を迎え、打席より緊張した。「六甲おろしに颯爽と…」。夏休み最後の甲子園は、広沢の歌声とそれに合わせて歌う4万8000人の大合唱で幕を閉じた。


【2009/6/21 スポニチ】

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