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【7月1日】2003年(平15) 

 一番難しいものから片付けた。長野・松本での横浜-ヤクルト15回戦でヤクルト3番の稲葉篤紀右翼手は初回、10球粘った末にクリス・ホルト投手から右中間へ三塁打を放った。

 「きょうはタイミングが合うな」。好感触をつかんだ第1打席。2打席目は4回、ストレートを痛打されていたホルトはカーブで勝負を挑んだが、稲葉はうまく拾って右翼スタンドに運んだ。5点ビハインドの場面で反撃ののろしとなった10号アーチ。この一撃で試合の流れは変わった。

 5回、先頭打者として右前打を放ち、逆転劇の口火を切った。これで球団5人目のサイクル安打にリーチ。気になるのは次第に強くなる雨。稲葉にもう1回打席が回ってくるかどうか、微妙な空模様だった。ところが稲葉のヒットで始まった攻撃は打者一巡しても終わらず、再度稲葉が打席に入った。

 富岡久貴投手の4球目のストレートを右翼線に弾き返した。「二塁で止まれ、止まれってベンチで怒鳴っていたみたいだけど、記録より行けるところまで行こうと思った」という実直な性格そのままの全力疾走。横浜の中継ミスで三塁まで達した。

 三塁打2本では意味がない。ヤクルトナインが三塁側ベンチで残念そうな表情を浮かべた時、スコアボードに失策を示す「E」のランプが灯った。公式記録員の判定は二塁打とエラーによる進塁。プロ野球56人目(60度目)のサイクル安打が生まれた瞬間だった。

 5回までに達成したのは史上初のスピード記録。試合は6回コールドで終了し、まさに天も味方したチーム11年ぶりの快挙だった。

 松本から約380キロ離れた大阪ドーム。稲葉の記録達成から1時間後。12年間でわずか2本塁打の左打者が最後の打席で右翼ポール際に届くアーチを放ち、13年ぶり球団3人目のサイクル安打を成し遂げた。

 中前打、右越え二塁打、左中間三塁打と順番通りヒットを積み重ねた迎えた9回。ダイエーの1番村松有人中堅手は近鉄・岡本晃投手の2球目、内角低めの138キロ直球を強振した。昨年までならフェンス手前で失速したはず。しかし、今は違う。この年就任した名球会プレーヤー、新井昌宏打撃コーチとともに手首の使い方に留意してスイングスピードを上げた改良打法で飛距離がアップした村松の打球はスタンドイン。稲葉に続いてプロ野球57人目のサイクルヒットが飛び出した。

 「狙って打った?それができるならもっとホームラン打ってるよ。思い切って振っただけ。でも、ベンチでは直前まで誰も(サイクルって)気づいてくれなかったんだよね」と大笑いした村松。まさかのサイクルヒットで、プロ野球史上初の1日2選手の快記録が生まれた(大リーグでは08年末現在2度達成)。

 話はさらに続く。翌2日、甲子園での阪神-中日15回戦で阪神の4番桧山進次郎右翼手がサイクル安打をマークした。連日のサイクル達成は、85年5月21日に近鉄・栗橋茂外野手が南海6回戦(大阪)で、翌22日に西武・岡村隆則外野手がロッテ8回戦(平和台)で達成して以来、18年ぶり2度目。桧山が記録を打ち立てたことで、1シーズン5度目のサイクルとなり、52年(昭27)の4度を実に51年ぶりに更新した。

 「きのうテレビで(稲葉と村松の)2人の映像を見ていて他人事だと思ってたんだけど、まさか自分が…。今でも自分のことじゃないみたい」とヒーローインタビューで話した桧山。03年はサイクルヒット大当たり年だった。


【2009/7/1 スポニチ】

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