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【6月6日】1998年(平10) 

 【阪神5―0横浜】北の大地、札幌で背番号83が三塁側ベンチから左中間へ猛然と走った。現役時代、“牛若丸”の異名を取った面影はもうないが、こばしりに“現場”へ急行した。

 「ボール、挟まりましたんか?」“現場検証”する阪神・吉田義男監督は審判団だけでなく、なんと札幌円山球場の外野席のお客さんにまで外野フェンスの金網越しに“事情聴取”した。

 初回、1死二塁で3番アロゾン・パウエル左翼手が横浜・野村弘樹投手から放った左中間への一撃で二走の坪井智哉右翼手が生還。パウエルも一気に三塁を奪った。

 ところが、打球は外野フェンスの金網の隙間に挟まった。野球規則7・05(f)に「2個の塁が与えられる」ケースはこうある。「フェアの打球が競技場のフェンス、スコアボード、潅木(かんぼく)、またはフェンスのつる草を抜けるか、その下をくぐるか、はさまって止まった場合」。ということで、パウエルは激走しながらも、エンタイトルツーベース扱いとなり、二塁へ戻された。

 そこでヨッさんこと吉田監督の登場となった。犠飛で2点目が入る可能性もある。二塁と三塁では状況が大きく違う。抗議に関しては、結構しつこいことで有名。5月9日のヤクルト戦では盗塁死をめぐって、試合終了後に甲子園の一塁側通路で審判を待ち伏せ、判定についてだけでなく、審判が見ていた立ち位置などにも注文を付ける一幕があったほどだった。

 審判団には何度も聞き返し、阪神ファンにも2度聞いた。「近くにいたお客さんが全員、金網に挟まった、と言ったのを聞いてやっと納得したようです」と虎党の女性。最後には横浜の波留敏夫中堅手にまで「本当に挟まったんか?」と念を押すほど。ようやくベンチに戻ったが、しばらくは残念そうな表情で指揮を執っていた。

 それでも中盤に小刻みに追加点を挙げ、試合を優位に進めると表情も和らいだ。加えて先発の助っ人左腕、ダレル・メイ投手が完璧な投球でマシンガン打線の横浜を封じ、散発4安打の完封勝ち。抗議のことはすっかり忘れて、6月最初の試合を白星で飾ると、満面の笑みでナインを迎えた。

 「メイがメイ(5月)じゃなくて、ジュライ(7月)に勝ちました。ハッハッハ!」と豪快に笑ったヨッさん。それって、ジュライじゃなくてジュン(6月)の間違いでは…。あまりに得意げに話すもので、番記者も指摘するタイミングを逸した。とにかく働きの悪いタイガースの外国人選手の活躍で勝った試合に、吉田監督は本当にご機嫌だった。

【2011/6/6 スポニチ】

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