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【６月３日】1961年(昭36)
【阪急１―０近鉄】５回裏、阪急の攻撃中に起きた出来事に西宮球場にいた誰もが自分の目を疑った。
近鉄のジャック・ブルーム二塁手が守備位置から突然猛ダッシュすると、一目散に一塁側ベンチ横の金網によじ登った。フェンスを乗り越えて向かった先は観客席。他には目もくれず、一人の男性目指して突進した。
右腕で男性の顔をいきなり殴ったブルーム。その場に倒れこんだ男性の顔を今度はスパイクで踏みつけた。回りの観客や警備のため球場にいた警察官がブルームを急いで取り押さえたが、興奮は収まらない。「アイツが俺を侮辱した。許されない言葉を吐いた」と背番号２８は、あたり構わず怒鳴り散らした。
プロ野球史上前代未聞の選手による観客への暴行事件。殴られたのは兵庫県尼崎市の２８歳の阪急ファン。退場を命じられ、三塁側のベンチ裏に引っ込んだブルームは、ユニホームを脱ぎ捨て、上半身裸のまま、一気にまくし立てた。
「(近鉄の本拠地)日生球場でもアイツはいつも汚い野次を飛ばしている。何でもない野次なら許せるが、“ヤンキー、ゴーホーム”だけは許せない。頭に血が上った」。
右大腿部と右手などに全治１週間のけがをした被害者の男性の言い分も聞かねばなるまい。「確かに野次ってはいたが、殴られるとは思っていなかった。事情はどうあろうと、野球見物に来て殴られてはたまらない。ブルームは厳しく罰してほしい。訴えるつもりでいる」。
刑事告訴も辞さない構えだったが、男性も言い過ぎだったことを認め、被害届は出さなかったが、球団としてはけじめをつけなければならない。２日後の５日、近鉄はブルームに対して、出場停止７日、制裁金５万円を課した。
大リーグの経験がないまま来日し、近鉄と南海で計７年在籍。６２、６３年は２年連続首位打者に輝いた。通算３０８５本安打を放った張本勲外野手が教えを請うほどの打撃技術と実績は近鉄球団史上、屈指の外国人選手だったが、エピソードにも事欠かない選手だった。
３１歳の誕生日となった６３年８月７日の近鉄―東映１８回戦(神宮)では、一塁線にセーフティーバントを試みたが、判定は間一髪アウト。絶対にセーフという自信があったブルームは中根之（すすむ）一塁塁審に猛抗議すると、退場を命じられた。中根塁審いわく「あまりにしつこく抗議した上に侮辱的な発言をした」。
ブルームは何と言ったのか。「その判定はパールハーバー(真珠湾)攻撃にも匹敵する卑劣な判定だ」とののしったという。日本語だったのか、英語だったのか、今となってははっきりしないが、かなり辛らつな言葉をぶつけたことは間違いないようだ。
米テキサス出身の気性の荒い助っ人のように見られるが、心温まる逸話もある。観客殴打事件と同じ６１年、入院していた妻の退院のため病院に来ていたブルームは生後５日目の女児が黄だんがひどく、全身の血液を入れ替えないと命が危ないという状況を聞き、進んで献血を申し出た。その甲斐あって女児は一命を取りためた。
それから３０年後、２児の母親となったあの女の子はどうしても「命の恩人に会ってお礼を言いたい」と申し出て、９１年１２月、プロ野球ＯＢ戦出場のため来日したブルームと再会を果たした。
【2011/6/3 スポニチ】
【阪急１―０近鉄】５回裏、阪急の攻撃中に起きた出来事に西宮球場にいた誰もが自分の目を疑った。
近鉄のジャック・ブルーム二塁手が守備位置から突然猛ダッシュすると、一目散に一塁側ベンチ横の金網によじ登った。フェンスを乗り越えて向かった先は観客席。他には目もくれず、一人の男性目指して突進した。
右腕で男性の顔をいきなり殴ったブルーム。その場に倒れこんだ男性の顔を今度はスパイクで踏みつけた。回りの観客や警備のため球場にいた警察官がブルームを急いで取り押さえたが、興奮は収まらない。「アイツが俺を侮辱した。許されない言葉を吐いた」と背番号２８は、あたり構わず怒鳴り散らした。
プロ野球史上前代未聞の選手による観客への暴行事件。殴られたのは兵庫県尼崎市の２８歳の阪急ファン。退場を命じられ、三塁側のベンチ裏に引っ込んだブルームは、ユニホームを脱ぎ捨て、上半身裸のまま、一気にまくし立てた。
「(近鉄の本拠地)日生球場でもアイツはいつも汚い野次を飛ばしている。何でもない野次なら許せるが、“ヤンキー、ゴーホーム”だけは許せない。頭に血が上った」。
右大腿部と右手などに全治１週間のけがをした被害者の男性の言い分も聞かねばなるまい。「確かに野次ってはいたが、殴られるとは思っていなかった。事情はどうあろうと、野球見物に来て殴られてはたまらない。ブルームは厳しく罰してほしい。訴えるつもりでいる」。
刑事告訴も辞さない構えだったが、男性も言い過ぎだったことを認め、被害届は出さなかったが、球団としてはけじめをつけなければならない。２日後の５日、近鉄はブルームに対して、出場停止７日、制裁金５万円を課した。
大リーグの経験がないまま来日し、近鉄と南海で計７年在籍。６２、６３年は２年連続首位打者に輝いた。通算３０８５本安打を放った張本勲外野手が教えを請うほどの打撃技術と実績は近鉄球団史上、屈指の外国人選手だったが、エピソードにも事欠かない選手だった。
３１歳の誕生日となった６３年８月７日の近鉄―東映１８回戦(神宮)では、一塁線にセーフティーバントを試みたが、判定は間一髪アウト。絶対にセーフという自信があったブルームは中根之（すすむ）一塁塁審に猛抗議すると、退場を命じられた。中根塁審いわく「あまりにしつこく抗議した上に侮辱的な発言をした」。
ブルームは何と言ったのか。「その判定はパールハーバー(真珠湾)攻撃にも匹敵する卑劣な判定だ」とののしったという。日本語だったのか、英語だったのか、今となってははっきりしないが、かなり辛らつな言葉をぶつけたことは間違いないようだ。
米テキサス出身の気性の荒い助っ人のように見られるが、心温まる逸話もある。観客殴打事件と同じ６１年、入院していた妻の退院のため病院に来ていたブルームは生後５日目の女児が黄だんがひどく、全身の血液を入れ替えないと命が危ないという状況を聞き、進んで献血を申し出た。その甲斐あって女児は一命を取りためた。
それから３０年後、２児の母親となったあの女の子はどうしても「命の恩人に会ってお礼を言いたい」と申し出て、９１年１２月、プロ野球ＯＢ戦出場のため来日したブルームと再会を果たした。
【2011/6/3 スポニチ】
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