球界関係者の間で最近ひそかに囁かれている話がある。
あのイチローが、
「星野(仙一)さんが監督なら来春のWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)には出たくない」
と知人に漏らしたという。
サッカーW杯の向こうを張った「野球のW杯」WBC。一昨年3月に開かれた第1回大会で王貞治監督のもと劇的な優勝を果たした日本代表の立役者、イチロー。その彼が「星野WBC」に拒否反応を示し、
「やはり王さんで」
と王の再任を熱望したというのだ。イチローと星野、いかにも相性が悪そう、ではある。
城島健司、井口資仁と、王率いるホークスからメジャー移籍した2人も、
「王さん以外の監督とはやりたくない」
と口にしたという。
これが事実かどうかは確認できなかった。だが実際、
「星野さんのカリスマはメジャーの選手には通じない」
と話す球界関係者は少なくないのだ。
◆WBC監督へ就任要請
臨機応変の対応が求められ出たとこ勝負の色合いが濃い国際試合で、星野は勝つ采配を振るえるのか、決定的な疑問符がついたのが今回の北京五輪だ。「金」どころか「銅」さえ逃がした屈辱の4位。「日本の野球って、この程度のレベルだったのか」と日本列島が落胆と失望に沈んだ。
ところが3位決定戦で米国に敗れた翌日、星野自身が、
「正式ではないが、WBC監督の要請が来ている」
と認め、にわかに「WBCも星野監督か」となったのだ。
「星野さん一流の観測気球ですよ。自分で情報を漏らし、世論の動向を測る。このままでは終われない、と本人はやる気満々でしょう」(事情通)
野球専門誌では早くも「WBCでリベンジを」と星野続投を唱え始めた。WBC監督人事を話し合うプロ野球実行委員会がある9月1日を前に援護射撃をしたかったのか、巨人の渡邉恒雄球団会長は8月25日、「星野君以外に誰がいるのか」と明言。読売新聞はWBC日本ラウンドの主催会社だけに「監督は星野で決まり」な雲行きだ。
しかしそれにしても、五輪での日本代表はひどすぎた。
<b>短期決戦の弱さを露呈
現地で取材したスポーツライター木村公一氏は怒る。
「チームの士気が最後まで上がらなかった。データを参考に打者ごとに守備位置を変えるのが当然なのにそんな動きもほとんどない。細かなサインプレーも高度な連係プレーも見られない。韓国代表は『日本には守備の差で勝てた』といっている」
高年俸を誇る日本代表だがプレーは「億万長者のお嬢さん野球」のよう。本来ライトのG・G・佐藤はレフトを守らされ、韓国との準決勝では痛いトンネルと落球を連発。歓喜した韓国のスポーツ紙(ネット版)に、落球瞬間の写真とともに、
「独島を越えたホームラン......ありがとう、佐藤」
と見出しをつけられた。
短期決戦では使える選手、使えない選手を序盤で見極めるのが鉄則なのにパターン化した選手起用に終始、岩瀬仁紀は試合の山場に投げては炎上した。日本シリーズに3回以上出た監督で日本一になっていないのは西本幸雄と星野だけ。短期決戦に弱い、との評価を決定付けた。
「コーチ編成といい、星野さんは五輪の野球を舐めていたといわれても仕方ない。ユニホームを脱いで4年のブランクで判断力も錆びていた。選手たちも『この人、大したことないな』と不信感を募らせた。短期決戦の寄せ集めチームでは彼のカリスマも人心掌握術も空回りした」(木村氏)
「批判は甘んじて受ける」といっていた星野だが、帰国会見では「日本はすぐ叩く。それでは若い人が夢を語れなくなる。叩くのは時間が止まった人間だ」などと開き直りと論理のすり替えに終始、顰蹙を買った。
にもかかわらず、なぜWBCまで星野なのか。
◆プロ野球で最高の名優
星野を名将というより「プロ野球史上最高の『名優』」と著書に書いたスポーツジャーナリストの工藤健策氏はいう。
「13年でリーグ優勝3回。星野さんは勝ってる監督ではない。ファンは勝敗とは別の彼のパフォーマンスに幻想を抱き、酔わされる。だがプロ野球は人気商売。ポストONで彼ほど華のある人はいない。北京五輪だって彼が監督だからあれだけ盛り上がった」
中日のエースだった現役時代は146勝121敗と球史に残る選手ではない。NHKのスポーツキャスターで全国に顔を売ったが、中日監督時代はまだ「名古屋の星野」だった。
球界の救世主的イメージを身にまといだしたのは01年12月、中日監督を去って間もなく実現した阪神監督就任からだ。「男・星野」のイメージを壊さず、ファンに拒否反応を抱かせず、マスコミを味方に付けた状況判断と手際のよさは天才的と評された。03年、最下位続きの阪神を18年ぶりにセ・リーグ優勝に導く。日本シリーズで敗れ退いたがカリスマは損なわれないまま61歳のいまに至る。語録集や人生論本、半生を描いたドラマも発売された。
ベンチで吼え、ガッツポーズを決める姿は扇動パワーに満ち、選手を霞ませるほどだ。「箒が相手でも名勝負が出来た」アントニオ猪木のようである。
◆「燃える男」の今後は
WBC監督人事では野村克也や落合博満と現役監督の名も挙がる。技量では星野より評価が高い。野村は「俺がヘッドコーチでどうや、冗談だが」とまんざらでもなさそうだ。だが星野以上の興行力は期待できない。落合は取材にまともに応じない監督でマスコミとの折り合いの悪さは相当なものだ。マスコミ各社にブレーンを持つという星野とは対照的だ。
だが、広告塔として卓抜ならいいのか。前述の工藤氏は、
「ファンの目は国際化し、五輪やWBCを世界一を決める大会と見ている。なのに日本のプロ野球は五輪を舐めていた。メジャーへの選手流出を球界がプラスに転化するには国際大会でジャパンが勝つことだ。それが日本のプロ野球が地盤沈下を食い止める道だ」
と語り、星野監督で行くにしても参謀、スタッフの充実を図るべきだと強調する。
ともあれ「星野続投」となればファンやマスコミから「虫が良すぎる」と批判の声は容易にやまないだろう。そんな反発を彼はどう「納得」させられるか。イチローが参加に難色を示せばシアトルに乗り込み「説得」するのも厭うまい。
五輪惨敗のいま、WBCには「燃える男」の今後の野球人生がかかっている。
編集部 小北清人
【2008/9/6 AERA-net.jp】
あのイチローが、
「星野(仙一)さんが監督なら来春のWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)には出たくない」
と知人に漏らしたという。
サッカーW杯の向こうを張った「野球のW杯」WBC。一昨年3月に開かれた第1回大会で王貞治監督のもと劇的な優勝を果たした日本代表の立役者、イチロー。その彼が「星野WBC」に拒否反応を示し、
「やはり王さんで」
と王の再任を熱望したというのだ。イチローと星野、いかにも相性が悪そう、ではある。
城島健司、井口資仁と、王率いるホークスからメジャー移籍した2人も、
「王さん以外の監督とはやりたくない」
と口にしたという。
これが事実かどうかは確認できなかった。だが実際、
「星野さんのカリスマはメジャーの選手には通じない」
と話す球界関係者は少なくないのだ。
◆WBC監督へ就任要請
臨機応変の対応が求められ出たとこ勝負の色合いが濃い国際試合で、星野は勝つ采配を振るえるのか、決定的な疑問符がついたのが今回の北京五輪だ。「金」どころか「銅」さえ逃がした屈辱の4位。「日本の野球って、この程度のレベルだったのか」と日本列島が落胆と失望に沈んだ。
ところが3位決定戦で米国に敗れた翌日、星野自身が、
「正式ではないが、WBC監督の要請が来ている」
と認め、にわかに「WBCも星野監督か」となったのだ。
「星野さん一流の観測気球ですよ。自分で情報を漏らし、世論の動向を測る。このままでは終われない、と本人はやる気満々でしょう」(事情通)
野球専門誌では早くも「WBCでリベンジを」と星野続投を唱え始めた。WBC監督人事を話し合うプロ野球実行委員会がある9月1日を前に援護射撃をしたかったのか、巨人の渡邉恒雄球団会長は8月25日、「星野君以外に誰がいるのか」と明言。読売新聞はWBC日本ラウンドの主催会社だけに「監督は星野で決まり」な雲行きだ。
しかしそれにしても、五輪での日本代表はひどすぎた。
<b>短期決戦の弱さを露呈
現地で取材したスポーツライター木村公一氏は怒る。
「チームの士気が最後まで上がらなかった。データを参考に打者ごとに守備位置を変えるのが当然なのにそんな動きもほとんどない。細かなサインプレーも高度な連係プレーも見られない。韓国代表は『日本には守備の差で勝てた』といっている」
高年俸を誇る日本代表だがプレーは「億万長者のお嬢さん野球」のよう。本来ライトのG・G・佐藤はレフトを守らされ、韓国との準決勝では痛いトンネルと落球を連発。歓喜した韓国のスポーツ紙(ネット版)に、落球瞬間の写真とともに、
「独島を越えたホームラン......ありがとう、佐藤」
と見出しをつけられた。
短期決戦では使える選手、使えない選手を序盤で見極めるのが鉄則なのにパターン化した選手起用に終始、岩瀬仁紀は試合の山場に投げては炎上した。日本シリーズに3回以上出た監督で日本一になっていないのは西本幸雄と星野だけ。短期決戦に弱い、との評価を決定付けた。
「コーチ編成といい、星野さんは五輪の野球を舐めていたといわれても仕方ない。ユニホームを脱いで4年のブランクで判断力も錆びていた。選手たちも『この人、大したことないな』と不信感を募らせた。短期決戦の寄せ集めチームでは彼のカリスマも人心掌握術も空回りした」(木村氏)
「批判は甘んじて受ける」といっていた星野だが、帰国会見では「日本はすぐ叩く。それでは若い人が夢を語れなくなる。叩くのは時間が止まった人間だ」などと開き直りと論理のすり替えに終始、顰蹙を買った。
にもかかわらず、なぜWBCまで星野なのか。
◆プロ野球で最高の名優
星野を名将というより「プロ野球史上最高の『名優』」と著書に書いたスポーツジャーナリストの工藤健策氏はいう。
「13年でリーグ優勝3回。星野さんは勝ってる監督ではない。ファンは勝敗とは別の彼のパフォーマンスに幻想を抱き、酔わされる。だがプロ野球は人気商売。ポストONで彼ほど華のある人はいない。北京五輪だって彼が監督だからあれだけ盛り上がった」
中日のエースだった現役時代は146勝121敗と球史に残る選手ではない。NHKのスポーツキャスターで全国に顔を売ったが、中日監督時代はまだ「名古屋の星野」だった。
球界の救世主的イメージを身にまといだしたのは01年12月、中日監督を去って間もなく実現した阪神監督就任からだ。「男・星野」のイメージを壊さず、ファンに拒否反応を抱かせず、マスコミを味方に付けた状況判断と手際のよさは天才的と評された。03年、最下位続きの阪神を18年ぶりにセ・リーグ優勝に導く。日本シリーズで敗れ退いたがカリスマは損なわれないまま61歳のいまに至る。語録集や人生論本、半生を描いたドラマも発売された。
ベンチで吼え、ガッツポーズを決める姿は扇動パワーに満ち、選手を霞ませるほどだ。「箒が相手でも名勝負が出来た」アントニオ猪木のようである。
◆「燃える男」の今後は
WBC監督人事では野村克也や落合博満と現役監督の名も挙がる。技量では星野より評価が高い。野村は「俺がヘッドコーチでどうや、冗談だが」とまんざらでもなさそうだ。だが星野以上の興行力は期待できない。落合は取材にまともに応じない監督でマスコミとの折り合いの悪さは相当なものだ。マスコミ各社にブレーンを持つという星野とは対照的だ。
だが、広告塔として卓抜ならいいのか。前述の工藤氏は、
「ファンの目は国際化し、五輪やWBCを世界一を決める大会と見ている。なのに日本のプロ野球は五輪を舐めていた。メジャーへの選手流出を球界がプラスに転化するには国際大会でジャパンが勝つことだ。それが日本のプロ野球が地盤沈下を食い止める道だ」
と語り、星野監督で行くにしても参謀、スタッフの充実を図るべきだと強調する。
ともあれ「星野続投」となればファンやマスコミから「虫が良すぎる」と批判の声は容易にやまないだろう。そんな反発を彼はどう「納得」させられるか。イチローが参加に難色を示せばシアトルに乗り込み「説得」するのも厭うまい。
五輪惨敗のいま、WBCには「燃える男」の今後の野球人生がかかっている。
編集部 小北清人
【2008/9/6 AERA-net.jp】
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