【シアトル25日=丹羽政善】イチローはこの日、第1打席にレフト前ヒットを放ち、メジャー通算1800安打を記録。1277試合目での達成は、記録が残る1954年以降では最速となり、2位のウエード・ボッグス(元レッドソックスほか)を75試合も上回った。

 この打席を含め、この日は2度の出塁で、2度とも生還。今季の得点を99とすると、8年連続100得点にリーチをかけた。

 また、この日2安打を加えたイチローは、通算安打の日本記録更新まであと「7」としている。

 100得点についてイチローは、「近づきましたね、ぐっと。まだ簡単じゃないですけど、可能性ができた」と話し、日本新記録の達成については「昨日で遠のいたけども、今日でギリギリつないだ。まあ、難しいことに変わりないけど、終わってはいない」と、残り3試合で7安打と望みをつないだ。

 さて、まあ、この日は、そういう記録面で前に進んだ一日ではあったけれども、シアトル・タイムズ紙の記事がきっかけで、試合前は、確実にいつもとは違う雰囲気がクラブハウスに流れていた。

 まず、前日の深夜にシアトル・タイムズ紙のウェブサイトに掲載されたので、最初に読んだのは、そのとき。確かに「イチローを嫌っている選手が多い」。「イチローに対して暴力を振るおうとする選手がいて、その不穏な動きを察知したジョン・マクラーレン前監督らが、それを制止してミーティングを開いた」というくだりはショッキングだったが、記事には、イチローはこういうチーム状態の中でも、きっちり求められる数字を残し、試合前の準備も怠らない、というむしろ好意的とも取れる内容になっていて、暗にイチローのプレースタイルを「自分勝手」と決めつけているチームメート(元チームメート?)に厳しい目を向けていた。

 ただ、前半部分がやはり注目され、この日、球場に向かう車の中で聞いていたスポーツラジオ局のテーマは、そこに集中していた。

 ファンらの反応はと言えば、リスナーからの電話を聞く限り、比較的イチローに同情的というか好意的と感じた。また、普段はすべてのことに辛口のパーソナリティーもイチロー寄りで、「イチローは、自分勝手。殴られて当然」と言うあるリスナーの電話に対しては「怒りの矛先は、イチローに向けるべきではない。いったい、どの選手が毎年のように200安打、100得点を記録できるんだ? 今年に関して言えば、エリク・ビダードや、カルロス・シルバらが問題であって、さらには彼らを獲得したフロントが問題だ」と説教までする始末だった。

 ただし、こういう記事が出てしまうと、そのあとが少しややこしい、というか、ギスギスする。アメリカではこういう状況を“DROP A BOMB(爆弾を落とす)”というが、まさにその通りで、試合前のクラブハウスには「誰が密告者なんだ?」という空気があり、試合前の監督会見では最初の質問が「誰がインサイダーなんだ」で始まり、そのやり取りに終始。本当にそれだけで、会見が終わってしまった。

 ジム・リグルマン監督代行は、そうした事実は知らないとした上で、こう言っている。

「チームの調子が悪いときには、誰かを責めたくなるもの。そういう選手が本当にいるのだとしたら、まずは自分の姿を鏡で見ろと言いたい」と話し、「イチローの試合に臨む姿勢を知っていれば、そんなことは言えないはず」とも言った。

 ちなみに、リグルマン監督代行が覚えている限り、ミーティングもなかったそう。

 クラブハウスでは、誰もがコメントを避けているようだったが、J.J.プッツは記者らの取材に応じ、「陰でこそこそするな」と密告者を責めている。以下は、すでにブログで紹介した。

「もし(話した人間が)選手だとしたら、問題だ。人は、みんな違った意見を持っている。でも、それを新聞を通して言うなんて…。もし言いたいことがあるのなら、その選手のところに行って、はっきりと言えばいい。陰でこそこそするのは最低だ。だいたい、誰よりも試合前の準備をかかさず、毎年のように200安打、100得点をマークしている選手に対して、どこからそんな話が出てくるんだ? とにかく、新聞を通して言うなんて、臆病者のすることだ」

 ところで、選手やほかの新聞の記者らの中には、「内部の情報提供者などいない」との声もあったが、記事を執筆したジェフ・ベーカー記者は、さっそく試合後のブログで、情報提供者は信頼できる、情報も信頼できるとつづり、「情報をくれたのは、イチロー寄りの人間だ」としている。

「言いたいのは、多くはイチローを認めているが、そうでない人もいるということ」と追記していた。

 インサイダーとベーカー記者は、問題をオープンにすることによって、解決の道を探る策を取ったようだが、一方でチームメートの中に「誰なんだ? 誰なんだ?」という動きも生まれ、逆効果になる可能性も、この荒治療ははらんでいる。

 この事態は、どこに落としどころがあるのだろうと思うが、もう、投げられた大きな石の波紋が全米に広がりつつある。試合後には、AP通信も記事を出した。ちなみに、この件について、イチローはコメントしていない。

【2008/9/26 MAJOR.JP】
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