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【ワシントン=渡辺浩生】派遣社員、加藤智大容疑者(25)が東京・秋葉原で起こした無差別殺傷事件は、昨年4月にバージニア工科大でチョ・スンヒ容疑者=当時(23)=が米史上最悪の32人を殺害した銃乱射事件と、いくつかの類似性を持つ。「寡黙」な印象と内なる凶暴性を併せ持ち、加藤容疑者はネット掲示板への書き込みで、チョ容疑者はテレビ局にビデオを郵送して犯行を通告。しかも、周囲や社会は、大量殺人の予兆を察知することができなかった。
「おとなしい」「目立たない」。同級生らにこうした印象を持たれた加藤容疑者とチョ容疑者は、ともに心に深い闇を抱えていた。
韓国生まれのチョ容疑者は8歳で家族と米国移住。中学、高校、大学と周囲とはほとんど会話しなかった。英語の発音を周囲にからかわれるなど、人種的な問題も人格形成に影響を及ぼしたという指摘もある。
大学の戯曲の授業で、義父に虐待を受けた少年がハンマーや電動のこぎりを持ち出すなど残虐な作品を書き、学生寮の自室には「金持ち野郎」などと裕福な学生への憎悪をメモに残してもいた。
一方、加藤容疑者は小中学時代、活発な優等生だったが、高校進学後は次第に周囲に口を閉ざしていった。派遣社員として工場で働き、リストラの不安を抱えながら、疎外感と鬱屈した不満を募らせていた。
「一見普通の子だが、孤独感と現状に対する不満を持ち、他者の自分への扱いが不公平と感じ、憂鬱になることで判断力がゆがみ、人生は生きる価値がないと思い、自殺よりむしろ他人の殺害を決意する」。高校生2人が12人を殺害したコロンバイン高校銃乱射事件直後の1999年5月、バージニア大のコーネル教授(犯罪心理学)は下院司法委員会で、大量殺人を引き起こす若者のタイプをこう証言している。
加藤容疑者もチョ容疑者も、内面の凶暴性が大量無差別殺人として噴出したのは間違いない。
トラックとダガーナイフで秋葉原の歩行者を襲った加藤容疑者。19口径と22口径のピストルを事前に入手し、キャンパスで授業中の学生や教官に銃口を向けたチョ容疑者。凶器と現場は異なるが、殺害行為に固執し、犯行は周到で計画的だった点は同じだ。
さらに、加藤容疑者が携帯のネット掲示板に「秋葉原で人を殺します」などと事前に犯行を予告していた点は、「おれをこうさせたのはお前たちだ」などとと語るビデオの犯行声明をテレビ局に送りつけていたチョ容疑者と同じ強い自己顕示欲を彷彿させる。
社会はこうしたシグナルを察知できなかった。加藤容疑者のネットでの犯行予告を警察当局はキャッチできず、チョ容疑者は精神科の治療を受け、凶暴なメモや作品を残していたのに、警察や大学当局は犯行の予兆を見逃し、短銃購入も許した。
日米2つの大量殺人は、計り知れぬ社会的衝撃を与えるとともに、凶行の背景に潜む類似性を浮かび上がらせたといえる。
【2008/6/11 MSN産経ニュース】
【國際】「印象薄い」秀才の転落 秋葉原通り魔事件の加藤容疑者
携帯電話の掲示板に犯行を予告し、その男は予告通り、次々と人の命を殺(あや)めていった。衝撃を与えた東京・秋葉原の無差別殺傷事件。しかし、逮捕された加藤智大容疑者(25)の幼少時代を知る人々は一様に「あの子がなぜ」と驚愕(きょうがく)の声を挙げる。幼いころから秀才と呼ばれ、将来を嘱望された加藤容疑者。どこに凶悪な犯行への萌芽(ほうが)があったのか。(豊吉広英、米沢文、荒船清太)
青森市郊外の閑静な住宅地に立つ薄緑色の一軒の民家。建物の周囲に敷き詰められた玉砂利の間から、ピンクや白の草花が無造作に咲き乱れている。加藤容疑者が高校卒業まで生活していた実家だ。
「以前だったら、花が咲くまで雑草が生えるなんて今みたいな状態は考えられないぐらい、きれいに整えられていたよ」と話すのは、毎日イヌの散歩で加藤容疑者の自宅前を歩く女性。「家の中も外もきっちりとしていた。だから家族もみんなきっちりしていると思っていた。人の家は、わからないものだ」
知人らによると、青森市内に生まれた加藤容疑者は、この家で両親と弟の4人で暮らしていたという。父親は地元金融機関に勤務し、母親は雪かきや花の手入れを熱心にするおとなしい女性。そして、一家は、教育熱心でも知られていた。
「兄弟そろって優秀な子供だった」と話すのは、加藤容疑者と弟が小学校時代に習っていた珠算教室の経営者だ。
「熱心じゃなかったけれど、集中力があった」。持ち前の集中力と能力。加藤容疑者はいつしか、周囲の誰もから「勉強ができる子」として知られるようになった。
◇
中学時代はクラスのリーダー的存在で、ソフトテニス部でも活躍していた加藤容疑者。高校は、県内最難関で、大学進学率が高い進学校に入学する。ただ、すんなりと入学に至ったわけではないようだ。加藤容疑者は中学時代から家庭内で暴れていたという。「母親が教育に厳しかったから、反発する気持ちが強かったんじゃないだろうか」。近所の女性は、加藤容疑者の心情をこう代弁する。
秀才といわれてきた加藤容疑者も、高校に入学すると、目立たない生徒になった。加藤容疑者が在学した学年の副主任だった男性教頭(59)は「卒業アルバムを見て思いだした。校内でも家庭でもトラブルもなかった。理系で成績も悪くなく、目立たず、印象が薄く、ごく普通の子だった」という。「今でも信じられないし、うそであってほしいと思っている」。イメージと犯行とのギャップに教頭は困惑を隠せない。
だが、このころから、加藤容疑者の様子が変わってきたとみる知人もいる。息子が加藤容疑者の同級生だったという女性は「加藤容疑者が高校に入ってから、何かマニアックな部分が出てきたと聞いたことがある」と話した。
◇
優秀な子。そのレールを外れたのは高校卒業後のことだった。卒業生の多くが4年制大学を進学先に選ぶ中、加藤容疑者が選んだのは、岐阜県にある自動車整備士を養成する短大。「小さいときから理科が好きで、『将来、技術者になりたい』といって、進学したようだ」と高校の先輩にあたる近所の男性はいう。
同短大によると、加藤容疑者は平成13年4月に同短大自動車工業科入学、学内にはその後、青森県内の別の大学に編入したという記録が残されている。「成績はかなり上位だったが、特に目立った生徒ではなかった。ただ、進学校からうちの短大に入学するのは極めて珍しいし、生徒の7割が自動車整備士になるなかで、別の大学に移るのも珍しい」
その後、加藤容疑者の実家では、弟も自宅を離れていった。昨秋には、母親が家を出て、父親が1人で生活するようになった。自宅は荒れた植木が目立つようになった。雑草が茂る庭を見て、近所では心配する声が上がっていた。
父親は事件発覚後、車で自宅を出たまま、戻ってきていないという。主の帰宅を待つように、自宅の玄関には、女の子の人形が一体、壁に飾られていた。
【2008/6/10 産経新聞】
「おとなしい」「目立たない」。同級生らにこうした印象を持たれた加藤容疑者とチョ容疑者は、ともに心に深い闇を抱えていた。
韓国生まれのチョ容疑者は8歳で家族と米国移住。中学、高校、大学と周囲とはほとんど会話しなかった。英語の発音を周囲にからかわれるなど、人種的な問題も人格形成に影響を及ぼしたという指摘もある。
大学の戯曲の授業で、義父に虐待を受けた少年がハンマーや電動のこぎりを持ち出すなど残虐な作品を書き、学生寮の自室には「金持ち野郎」などと裕福な学生への憎悪をメモに残してもいた。
一方、加藤容疑者は小中学時代、活発な優等生だったが、高校進学後は次第に周囲に口を閉ざしていった。派遣社員として工場で働き、リストラの不安を抱えながら、疎外感と鬱屈した不満を募らせていた。
「一見普通の子だが、孤独感と現状に対する不満を持ち、他者の自分への扱いが不公平と感じ、憂鬱になることで判断力がゆがみ、人生は生きる価値がないと思い、自殺よりむしろ他人の殺害を決意する」。高校生2人が12人を殺害したコロンバイン高校銃乱射事件直後の1999年5月、バージニア大のコーネル教授(犯罪心理学)は下院司法委員会で、大量殺人を引き起こす若者のタイプをこう証言している。
加藤容疑者もチョ容疑者も、内面の凶暴性が大量無差別殺人として噴出したのは間違いない。
トラックとダガーナイフで秋葉原の歩行者を襲った加藤容疑者。19口径と22口径のピストルを事前に入手し、キャンパスで授業中の学生や教官に銃口を向けたチョ容疑者。凶器と現場は異なるが、殺害行為に固執し、犯行は周到で計画的だった点は同じだ。
さらに、加藤容疑者が携帯のネット掲示板に「秋葉原で人を殺します」などと事前に犯行を予告していた点は、「おれをこうさせたのはお前たちだ」などとと語るビデオの犯行声明をテレビ局に送りつけていたチョ容疑者と同じ強い自己顕示欲を彷彿させる。
社会はこうしたシグナルを察知できなかった。加藤容疑者のネットでの犯行予告を警察当局はキャッチできず、チョ容疑者は精神科の治療を受け、凶暴なメモや作品を残していたのに、警察や大学当局は犯行の予兆を見逃し、短銃購入も許した。
日米2つの大量殺人は、計り知れぬ社会的衝撃を与えるとともに、凶行の背景に潜む類似性を浮かび上がらせたといえる。
【2008/6/11 MSN産経ニュース】
【國際】「印象薄い」秀才の転落 秋葉原通り魔事件の加藤容疑者
携帯電話の掲示板に犯行を予告し、その男は予告通り、次々と人の命を殺(あや)めていった。衝撃を与えた東京・秋葉原の無差別殺傷事件。しかし、逮捕された加藤智大容疑者(25)の幼少時代を知る人々は一様に「あの子がなぜ」と驚愕(きょうがく)の声を挙げる。幼いころから秀才と呼ばれ、将来を嘱望された加藤容疑者。どこに凶悪な犯行への萌芽(ほうが)があったのか。(豊吉広英、米沢文、荒船清太)
青森市郊外の閑静な住宅地に立つ薄緑色の一軒の民家。建物の周囲に敷き詰められた玉砂利の間から、ピンクや白の草花が無造作に咲き乱れている。加藤容疑者が高校卒業まで生活していた実家だ。
「以前だったら、花が咲くまで雑草が生えるなんて今みたいな状態は考えられないぐらい、きれいに整えられていたよ」と話すのは、毎日イヌの散歩で加藤容疑者の自宅前を歩く女性。「家の中も外もきっちりとしていた。だから家族もみんなきっちりしていると思っていた。人の家は、わからないものだ」
知人らによると、青森市内に生まれた加藤容疑者は、この家で両親と弟の4人で暮らしていたという。父親は地元金融機関に勤務し、母親は雪かきや花の手入れを熱心にするおとなしい女性。そして、一家は、教育熱心でも知られていた。
「兄弟そろって優秀な子供だった」と話すのは、加藤容疑者と弟が小学校時代に習っていた珠算教室の経営者だ。
「熱心じゃなかったけれど、集中力があった」。持ち前の集中力と能力。加藤容疑者はいつしか、周囲の誰もから「勉強ができる子」として知られるようになった。
◇
中学時代はクラスのリーダー的存在で、ソフトテニス部でも活躍していた加藤容疑者。高校は、県内最難関で、大学進学率が高い進学校に入学する。ただ、すんなりと入学に至ったわけではないようだ。加藤容疑者は中学時代から家庭内で暴れていたという。「母親が教育に厳しかったから、反発する気持ちが強かったんじゃないだろうか」。近所の女性は、加藤容疑者の心情をこう代弁する。
秀才といわれてきた加藤容疑者も、高校に入学すると、目立たない生徒になった。加藤容疑者が在学した学年の副主任だった男性教頭(59)は「卒業アルバムを見て思いだした。校内でも家庭でもトラブルもなかった。理系で成績も悪くなく、目立たず、印象が薄く、ごく普通の子だった」という。「今でも信じられないし、うそであってほしいと思っている」。イメージと犯行とのギャップに教頭は困惑を隠せない。
だが、このころから、加藤容疑者の様子が変わってきたとみる知人もいる。息子が加藤容疑者の同級生だったという女性は「加藤容疑者が高校に入ってから、何かマニアックな部分が出てきたと聞いたことがある」と話した。
◇
優秀な子。そのレールを外れたのは高校卒業後のことだった。卒業生の多くが4年制大学を進学先に選ぶ中、加藤容疑者が選んだのは、岐阜県にある自動車整備士を養成する短大。「小さいときから理科が好きで、『将来、技術者になりたい』といって、進学したようだ」と高校の先輩にあたる近所の男性はいう。
同短大によると、加藤容疑者は平成13年4月に同短大自動車工業科入学、学内にはその後、青森県内の別の大学に編入したという記録が残されている。「成績はかなり上位だったが、特に目立った生徒ではなかった。ただ、進学校からうちの短大に入学するのは極めて珍しいし、生徒の7割が自動車整備士になるなかで、別の大学に移るのも珍しい」
その後、加藤容疑者の実家では、弟も自宅を離れていった。昨秋には、母親が家を出て、父親が1人で生活するようになった。自宅は荒れた植木が目立つようになった。雑草が茂る庭を見て、近所では心配する声が上がっていた。
父親は事件発覚後、車で自宅を出たまま、戻ってきていないという。主の帰宅を待つように、自宅の玄関には、女の子の人形が一体、壁に飾られていた。
【2008/6/10 産経新聞】
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