今年に入り、続発している通り魔や無差別殺傷事件。東京都品川区の商店街で1月、少年(17)が5人を切りつけたのを皮切りに、3月には茨城県土浦市のJR駅周辺で無職の男(24)が8人を刺し、2日後にはJR岡山駅で少年(18)が県職員をホームから突き落として殺害した。「誰でもよかった」。どの容疑者もこう供述し、東京・秋葉原の17人殺傷事件で逮捕された加藤智大(ともひろ)容疑者(25)も同じ言葉を口にした。理不尽な犯行に駆り立てるものは何なのか-。

▽…漂う厭世(えんせい)観

 《負け組は生まれながらにして負け組なのです まずそれに気付きましょう そして受け入れましょう》

 犯行から3カ月以上前の2月27日に加藤容疑者とみられる人物が携帯電話サイトに書き込んだ。《このまま死んでしまえば幸せなのに そう思うことが多々あります》(3月2日)。このとき、すでに自殺願望が芽生えていたことがうかがえる。

 4月に入ると、「他者」への敵意をのぞかせる。《誰でもいいから殺したい気分です》(14日) 《私より幸せな人をすべて殺せば、私も幸せになれますか? なれますよね?》(24日)。

 5月中旬以降は書き込みの頻度が増し、犯行当日まで約3000回に及んだ。

 《300人規模のリストラだそうです やっぱり私は要らない人です》《女性は学歴を気にするのですね 三流の短大卒の私にはチャンスはなさそうです》《夢も希望もなく 力尽き果て(略)寂しい老後を独りぼっちで、部屋の片隅で膝を抱え…》

 リストラへの不安、孤独感、劣等感、厭世観…。それらがない交ぜになった文面が続く。無差別殺人へと突き進んでいく心理状態を示唆する記述もあった。

 《世の中すべてが私の敵です》(5月26日)。

▽…挫折感を吐露

 現在の感情を中心につづった書き込みの中に、ある特異な記述が登場する。生い立ちに関する“独白”だ。犯行当日にも《大人には評判の良い子だった》と書き込んでいたが、犯行4日前の6月4日にもある。

 《親が書いた作文で賞を取り、親が書いた絵で賞を取り、親に無理やり勉強させられたから勉強は完璧》《親が周りに自分の息子を自慢したいから、完璧に仕上げたわけだ 俺が書いた作文とかは全部親の検閲が入ってたっけ》

 中学時代、成績は学年のトップクラス。近所では両親とも教育熱心で知られた。高校は県内最難関の県立青森高に進学。だが、入学後、成績は低迷した。

 「4年制大学に進学できる学力だった」(当時の学年副主任)が、県外の自動車整備士を養成する短大に進学。短大入学は学年で2人だけだった。短大でも整備士資格は取らず、その後は実家や地方を転々とし、仕事も長続きしなかった。《高校出てから8年、負けっぱなしの人生》(6月4日)。容疑者は、挫折感をこう吐露している。

 《他人に仕事と認められない底辺の労働》《お昼の社員食堂の定食だけで月に1万円です 正社員なら3割引きで食べられるのですけれど》。加藤智大容疑者(25)はサイトへの書き込みで、派遣社員という立場への不満もつづっている。

▽…格差社会も一因

 昨年11月から働いていた関東自動車工業東富士工場。車の塗装面に傷などがないかをチェックする担当だった。勤務は1日8時間。右から左に流れてくる車を凝視し続けた。

 時給は1300円。残業代が多いと月給30万円を超えた。だが、6月からは残業代はカットされ、月給は20万円程度まで落ち込む見通しだった。《お金のかかる趣味を始めたとたんにこの仕打ちですか》(5月26日)。給与面の悪化にもいらだちをみせた。

 平成11年の労働者派遣法改正を機に急増した派遣労働者。身分保障や収入が不安定で、「格差社会」の大きな要因とされる。「(派遣労働者は)将来への希望が持てない」と、派遣ユニオンの関根秀一郎書記長はいう。

 鬱積(うっせき)した不満は、6月4日、《勝ち組はみんな死んでしまえ》との書き込みとなった。容疑者は犯行を決意したかのように、翌日に職場でトラブルを起こした。そして、海外メディアも「オタクの街」として注目し始めたアキバで無差別殺傷へと突き進んだ。

▽…社会に刃

 高校時代の挫折と格差社会への憎悪-。「容疑者の動機解明には、この2つがポイントでは」と捜査幹部はみる。

 NPO法人「ストレスカウンセリングセンター」の前川哲治理事長は「親が厳格に育てれば成績は良くなるが、異常にプライドが高くなる。いったんマイナス思考に陥ると、修正がききにくい」。その上で「もっと自分はすごいはずで、うまくいかないのは周囲が悪いからというゆがんだ心理状態になり、人間はみんな敵に見えてくる」と話す。

 聖学院大の作田明客員教授(犯罪心理学)も「優秀とされた人はつまずくと、『すべて他人のせいだ』と社会を恨む。世間にもう一度、自分の存在を知らしめたいと考え、無差別な犯罪で目的を果たすパターンが多い」と分析した。

 取り調べで、自らの境遇に話が及ぶと、容疑者は涙を見せるという。「生い立ちの話には、いろいろと感じることがあるようだ」。捜査幹部はそう話した。

【2008/6/10 MSN産経ニュース】
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