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【9月20日】1972年(昭47) 

 【巨人2―1阪神】勝負は1打席目でついた。初回、巨人の3番王貞治一塁手が自己記録の更新の期待がかかる中、阪神先発の村山実投手から右翼スタンドへ完璧な先制本塁打。これで前日達成した日本新記録の6試合連続本塁打をさらに上回る7試合連続となった。

 いつまでも白球が消えた外野席を呆然と見つめていたマウンド上の背番号11。ふと我に返ると、寂しそうな笑みを浮かべた。マウンドに登ればいつでも食うか食われるかの真剣勝負。勝利のその瞬間まで白い歯など見せたことのない男がニヒルに笑った。

 「あれを完璧に打たれたらオシマイや」。いつでも全力投球、触れば火傷しそうなその背中に急に冷たい汗が伝わるような感覚を村山は覚えた。

 前日の19日、甲子園での同じ阪神戦で6試合連続本塁打を山本和行投手から初回に放った王。シュートに詰まりながらも右翼ラッキーゾーンに運んだ日本新記録となる連続試合本塁打に「今の王には何を投げても打たれそうな気がする」と阪神・金田正泰監督を嘆かせた。その絶好調の王に真っ向勝負を挑んだ村山。72年はここまで7打数無安打と完璧に抑えていた。記録をとめるのはオレ。そんな自負もあった。

 が、その自信はいとも簡単に砕かれた。カウント1―2からの4球目。伝家の宝刀、フォークボールを投げた。決して失投ではなかった。外角やや高めの軌道。このままいけば今までどおり空振りが取れるはずだった。が、王のバットは芯でとらえ、気がつけばライトスタンドでボールははねていた。

 「フォークが通用するうちはまだユニホームを脱がん」。通算200勝を超える村山もすでに36歳。往年のストレートの速さはないものの、決め球でアウトを取れるうちはと思っていたが、こうまできれいに打たれるともう笑うしかなかった。

 開幕から8試合で2勝6敗の成績に、兼任監督の座を降りて現役一本に絞った村山だったが、この王の一発で引退を決意。11月2日、正式に表明し、背番号11はタイガースの永久欠番となった。

 一方の王はこの年32歳。ややバッティングにかげりが見えてきた長嶋茂雄三塁手に代わって、巨人の中心打者として実績も風格も頂点に近づこうとしていた。

 9月11日の広島19回戦(後楽園)で34号弾を宮本洋二郎投手から放つと、7試合連続を記録するまでに1試合2本を2度含む計9本塁打を記録した。「本塁打は狙って打てるものではない」。世界記録保持者の王らしからぬ持論だったが、日本記録タイの5試合連続も、新記録も、そして自己記録更新の7試合連続も、初回の第1打席で仕留めたもの。狙って打った、と思い込みたくなるほど鮮やかな大記録達成だった。

 「試合が終盤でもつれてくれば簡単に打たせてはくれない」。王はそう話している。四球で歩かされるケースは試合の後半に多かった王にとって1打席目は数少ない勝負の場面。狙って打てるはずがないと王は言ったが、限りなく狙って打った本塁打であることは記録が物語っていた。


【2010/9/20 スポニチ】
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