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日曜日の歩行者天国でにぎわう東京・秋葉原で起きた惨劇。静岡県裾野市の派遣社員、加藤智大(ともひろ)容疑者(25)=殺人未遂の現行犯で逮捕=が7人を殺害し、10人に重軽傷を負わせた通り魔事件。携帯電話のサイトに犯行を予告するという前代未聞の凶行に及んだ容疑者の人格には、「おとなしさ」と「凶暴さ」という二面性が潜む。凶器としてトラックに加え、刃物も準備した計画的な犯行からは、無差別殺人への異常なまでの執着も浮かび上がってくる。
■犯行予告、そして実況中継も
《秋葉原で人を殺します 車でつっこんで、車が使えなくなったらナイフを使います みんなさようなら》
加藤容疑者は事件当日の8日、「秋葉原で人を殺します」とのタイトルで、携帯電話サイトの掲示板に書き込みを行っていた。
最初は午前5時21分で、7時間後に実行する通り魔事件を明確に予告した。
《時間だ 出かけよう》(6時31分)
《神奈川入って休憩》(9時48分)
静岡県内から都内へと向かう足どりを実況中継するような書き込みが続く。
《秋葉原ついた》(11時45分)
《時間です》(午後0時10分)
7時間弱で26回も続いた発信は、これで途絶えた。
ロールプレイングゲームが趣味で、犯行現場に“オタク文化”の発信地である秋葉原を選んだ加藤容疑者。帝塚山学院大の小田晋教授(犯罪精神医学)は「リアルタイムに行った書き込みや告知は『劇場型犯罪』の典型」と指摘する。
しかも、この日は大阪教育大学付属池田小学校の殺傷事件から7年にあたり、「『記念日』と考えていた可能性もある」とみる。
約20分後、加藤容疑者は2トントラックで歩行者天国の通りに突っ込む。歩行者数人をはねた後、両刃で殺傷能力の高いダガーナイフで通行人らを刺し、7人を殺害し、10人に重軽傷を負わせた。
サイトへの書き込みには、加藤容疑者の心理状態を吐露された内容もあった。
《ほんの数人、こんな俺に長いことつきあってくれてた奴らがいる》(6時4分)
《使う予定の道路が封鎖中とか やっぱり、全てが俺の邪魔をする》(6時10分)
捜査幹部はこんな感想を漏らしている。
「行動報告のような書き込みの中に突然、孤独感と思いどおりにならない人生に自暴自棄になっている心の内を明かしているようにみえる」
■おとなしかった容疑者…犯行直前には「凶暴性」むき出しに
「快活で、いい青年だった」
「きちんと挨拶のできる頭のいい子だった」
青森市内で育った加藤容疑者の小・中学校時代を知る人は、そう口をそろえる。
加藤容疑者は両親と弟の4人家族で、父親は地元の金融機関に勤務。「両親は教育熱心で、そろばん教室や水泳教室に通わせていた」と知人の女性は証言する。
加藤容疑者は小学生時代、足が速く、クラスの人気者だった。
地元の中学を卒業後、県立青森高に入学。生徒の大半が4年制大学に進む県内トップクラスの進学校だ。高校時代は目立たない生徒で、加藤容疑者が在学した学年の副主任だった男性教頭(59)はこう振り返る。
「校内でも家庭でもトラブルはなかった。印象が薄く、ごく普通の子だった」
しかし、別の証言もある。
「中学に入り、家庭内暴力があったようだ」
加藤容疑者を小学生時代から知る男性は、加藤容疑者が中学時代、校内でもテニスのラケットで机をたたいたり、教室でイスを投げたりしたと聞いたと証言するのだ。
「目立たない生徒」
「粗暴な行動」
知人の証言からは、加藤容疑者の二面性がうかがえる。事実、加藤容疑者は犯行前のサイトへの書き込みでも、理想的な子供を装っていたことを告白している。
《大人には評判の良い子だった 大人には》
《いい人を演じるのには慣れてる みんな簡単に騙される》
二面性は勤務先での行動からも浮かび上がる。
加藤容疑者は製造業派遣大手の日研総業(東京都大田区)に登録、昨年11月から裾野市内の関東自動車工業東富士工場に派遣され、塗装工程を担当していた。派遣会社の面接では口数が少なく、おとなしい印象だった。工場でも「勤務態度は良好で、同僚とも問題はなかった」(工場関係者)。
だが、今月5日、粗暴な素顔をむき出しにした。
「ツナギ(作業服)がない」
午前6時ごろ、工場の更衣室で加藤容疑者は大声で騒ぎ立てた。そばにあるツナギを床にぶちまけ、壁を殴ったり蹴ったりした。
職場リーダーが別のツナギを持っていくと、加藤容疑者は無断で帰宅していた。ツナギは専用のロッカーに保管されており、加藤容疑者のツナギもロッカー内にあった。加藤容疑者の言動は不可解極まりない。
《作業場行ったらツナギが無かった 辞めろってか》
《やっかい払いができた会社としては万々歳なんだろうな》
更衣室で騒ぎを起こした10数分後から、加藤容疑者は犯行を予告した携帯サイトの別の掲示板に、こんな書き込みをしていた。
ツナギがないと勘違いしたうえ、解雇されたと思いこんだのか。
■リストラ不安が無差別殺人に結び付いた?
加藤容疑者が職場でみせた“異変”ともいえる不可解な行動。
「怒ったときは制御が効かない」
ある同僚は加藤容疑者について、そう話す。感情をあらわにして大声を出し、キレると歯止めがきかないのだという。
実は、加藤容疑者が職場を「解雇された」と誤解したのには伏線がある。
関係者によると、加藤容疑者が働いていた関東自動車では5月末で人員の削減計画があったとされ、「派遣社員は全員リストラする」とのうわさも広まっていた。
「(派遣元の)日研が完全に撤退する」
加藤容疑者からこう耳打ちされた同僚もいる。
関東自動車は「会社全体として派遣社員を減らそうという話はあるが、(加藤容疑者の担当する)塗装工程は縮小する予定はない」(庶務広報室)と否定する。加藤容疑者もリストラ対象ではなかった。
だが、加藤容疑者は来年3月までの契約期間を打ち切られ、解雇されるとの不安感を一方的に募らせていたとみられる。
「事情があって裾野に来た。両親も離婚して頼れない。車で事故を起こして借金を背負っている」
最近も加藤容疑者は同僚にリストラの不安を打ち明けた。掲示板にはこうも記している。
《『誰でもよかった』 なんかわかる気がする》(5日午後0時5分)
「2、3日前に犯行を決意した」
「世の中が嫌になった。誰でもよかった」
これらは逮捕後の加藤容疑者の供述だ。掲示板への書き込みと突き合わせると、十把ひとからげにリストラされるとの焦燥感から、相手を選ばない無差別殺人を思いついた疑いがある。
■殺害への異様な固執…見知らぬ被害者に馬乗りになって刺した容疑者
「これまでの無差別殺人より、人を殺すための計画が周到で、殺害行為に異常に固執している」
加藤容疑者の犯行を、捜査幹部はこう分析している。
第一の凶器としてトラックで歩行者天国に突っ込み、第二の凶器にダガーナイフなど刃物を携帯していた加藤容疑者の手口が象徴的だ。
「引っ越しに使う」
そう理由をつけ、静岡県沼津市内のレンタカー会社で借りた2トントラックを犯行に使用した。乗用車より車高が高く、幅も広いトラックであれば、殺傷力は当然に高まる。「もっと大きいトラックを借りようとしていた」(レンタカー会社関係者)との証言もある。
「福井で凶器を購入した」
調べに対し、加藤容疑者こう供述している。福井市内のミリタリーショップによると、事件2日前に加藤容疑者とみられる男が訪れ、ダガーナイフなど6本を購入していた。警視庁万世橋署捜査本部は9日、加藤容疑者の自宅を捜索し、残りの刃物の発見を急いでいる。
「トラックにはねられて路上に倒れ込んだ男性に、容疑者は馬乗りになり、刃物で何度も刺すと、男性はピクリとも動かなくなった」
目撃者の証言からも、殺害行為への加藤容疑者の尋常でない執着が浮かび上がる。
「刃物で刺すという行為で、初めて人を殺す実感を得られたのかもしれない」(警視庁幹部)
通り魔事件としては過去30年で最悪の被害を出した残忍極まりない犯行は、こうしてエスカレートしていった可能性もある。
【2008/6/9 MSN産経ニュース】
■犯行予告、そして実況中継も
《秋葉原で人を殺します 車でつっこんで、車が使えなくなったらナイフを使います みんなさようなら》
加藤容疑者は事件当日の8日、「秋葉原で人を殺します」とのタイトルで、携帯電話サイトの掲示板に書き込みを行っていた。
最初は午前5時21分で、7時間後に実行する通り魔事件を明確に予告した。
《時間だ 出かけよう》(6時31分)
《神奈川入って休憩》(9時48分)
静岡県内から都内へと向かう足どりを実況中継するような書き込みが続く。
《秋葉原ついた》(11時45分)
《時間です》(午後0時10分)
7時間弱で26回も続いた発信は、これで途絶えた。
ロールプレイングゲームが趣味で、犯行現場に“オタク文化”の発信地である秋葉原を選んだ加藤容疑者。帝塚山学院大の小田晋教授(犯罪精神医学)は「リアルタイムに行った書き込みや告知は『劇場型犯罪』の典型」と指摘する。
しかも、この日は大阪教育大学付属池田小学校の殺傷事件から7年にあたり、「『記念日』と考えていた可能性もある」とみる。
約20分後、加藤容疑者は2トントラックで歩行者天国の通りに突っ込む。歩行者数人をはねた後、両刃で殺傷能力の高いダガーナイフで通行人らを刺し、7人を殺害し、10人に重軽傷を負わせた。
サイトへの書き込みには、加藤容疑者の心理状態を吐露された内容もあった。
《ほんの数人、こんな俺に長いことつきあってくれてた奴らがいる》(6時4分)
《使う予定の道路が封鎖中とか やっぱり、全てが俺の邪魔をする》(6時10分)
捜査幹部はこんな感想を漏らしている。
「行動報告のような書き込みの中に突然、孤独感と思いどおりにならない人生に自暴自棄になっている心の内を明かしているようにみえる」
■おとなしかった容疑者…犯行直前には「凶暴性」むき出しに
「快活で、いい青年だった」
「きちんと挨拶のできる頭のいい子だった」
青森市内で育った加藤容疑者の小・中学校時代を知る人は、そう口をそろえる。
加藤容疑者は両親と弟の4人家族で、父親は地元の金融機関に勤務。「両親は教育熱心で、そろばん教室や水泳教室に通わせていた」と知人の女性は証言する。
加藤容疑者は小学生時代、足が速く、クラスの人気者だった。
地元の中学を卒業後、県立青森高に入学。生徒の大半が4年制大学に進む県内トップクラスの進学校だ。高校時代は目立たない生徒で、加藤容疑者が在学した学年の副主任だった男性教頭(59)はこう振り返る。
「校内でも家庭でもトラブルはなかった。印象が薄く、ごく普通の子だった」
しかし、別の証言もある。
「中学に入り、家庭内暴力があったようだ」
加藤容疑者を小学生時代から知る男性は、加藤容疑者が中学時代、校内でもテニスのラケットで机をたたいたり、教室でイスを投げたりしたと聞いたと証言するのだ。
「目立たない生徒」
「粗暴な行動」
知人の証言からは、加藤容疑者の二面性がうかがえる。事実、加藤容疑者は犯行前のサイトへの書き込みでも、理想的な子供を装っていたことを告白している。
《大人には評判の良い子だった 大人には》
《いい人を演じるのには慣れてる みんな簡単に騙される》
二面性は勤務先での行動からも浮かび上がる。
加藤容疑者は製造業派遣大手の日研総業(東京都大田区)に登録、昨年11月から裾野市内の関東自動車工業東富士工場に派遣され、塗装工程を担当していた。派遣会社の面接では口数が少なく、おとなしい印象だった。工場でも「勤務態度は良好で、同僚とも問題はなかった」(工場関係者)。
だが、今月5日、粗暴な素顔をむき出しにした。
「ツナギ(作業服)がない」
午前6時ごろ、工場の更衣室で加藤容疑者は大声で騒ぎ立てた。そばにあるツナギを床にぶちまけ、壁を殴ったり蹴ったりした。
職場リーダーが別のツナギを持っていくと、加藤容疑者は無断で帰宅していた。ツナギは専用のロッカーに保管されており、加藤容疑者のツナギもロッカー内にあった。加藤容疑者の言動は不可解極まりない。
《作業場行ったらツナギが無かった 辞めろってか》
《やっかい払いができた会社としては万々歳なんだろうな》
更衣室で騒ぎを起こした10数分後から、加藤容疑者は犯行を予告した携帯サイトの別の掲示板に、こんな書き込みをしていた。
ツナギがないと勘違いしたうえ、解雇されたと思いこんだのか。
■リストラ不安が無差別殺人に結び付いた?
加藤容疑者が職場でみせた“異変”ともいえる不可解な行動。
「怒ったときは制御が効かない」
ある同僚は加藤容疑者について、そう話す。感情をあらわにして大声を出し、キレると歯止めがきかないのだという。
実は、加藤容疑者が職場を「解雇された」と誤解したのには伏線がある。
関係者によると、加藤容疑者が働いていた関東自動車では5月末で人員の削減計画があったとされ、「派遣社員は全員リストラする」とのうわさも広まっていた。
「(派遣元の)日研が完全に撤退する」
加藤容疑者からこう耳打ちされた同僚もいる。
関東自動車は「会社全体として派遣社員を減らそうという話はあるが、(加藤容疑者の担当する)塗装工程は縮小する予定はない」(庶務広報室)と否定する。加藤容疑者もリストラ対象ではなかった。
だが、加藤容疑者は来年3月までの契約期間を打ち切られ、解雇されるとの不安感を一方的に募らせていたとみられる。
「事情があって裾野に来た。両親も離婚して頼れない。車で事故を起こして借金を背負っている」
最近も加藤容疑者は同僚にリストラの不安を打ち明けた。掲示板にはこうも記している。
《『誰でもよかった』 なんかわかる気がする》(5日午後0時5分)
「2、3日前に犯行を決意した」
「世の中が嫌になった。誰でもよかった」
これらは逮捕後の加藤容疑者の供述だ。掲示板への書き込みと突き合わせると、十把ひとからげにリストラされるとの焦燥感から、相手を選ばない無差別殺人を思いついた疑いがある。
■殺害への異様な固執…見知らぬ被害者に馬乗りになって刺した容疑者
「これまでの無差別殺人より、人を殺すための計画が周到で、殺害行為に異常に固執している」
加藤容疑者の犯行を、捜査幹部はこう分析している。
第一の凶器としてトラックで歩行者天国に突っ込み、第二の凶器にダガーナイフなど刃物を携帯していた加藤容疑者の手口が象徴的だ。
「引っ越しに使う」
そう理由をつけ、静岡県沼津市内のレンタカー会社で借りた2トントラックを犯行に使用した。乗用車より車高が高く、幅も広いトラックであれば、殺傷力は当然に高まる。「もっと大きいトラックを借りようとしていた」(レンタカー会社関係者)との証言もある。
「福井で凶器を購入した」
調べに対し、加藤容疑者こう供述している。福井市内のミリタリーショップによると、事件2日前に加藤容疑者とみられる男が訪れ、ダガーナイフなど6本を購入していた。警視庁万世橋署捜査本部は9日、加藤容疑者の自宅を捜索し、残りの刃物の発見を急いでいる。
「トラックにはねられて路上に倒れ込んだ男性に、容疑者は馬乗りになり、刃物で何度も刺すと、男性はピクリとも動かなくなった」
目撃者の証言からも、殺害行為への加藤容疑者の尋常でない執着が浮かび上がる。
「刃物で刺すという行為で、初めて人を殺す実感を得られたのかもしれない」(警視庁幹部)
通り魔事件としては過去30年で最悪の被害を出した残忍極まりない犯行は、こうしてエスカレートしていった可能性もある。
【2008/6/9 MSN産経ニュース】
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